第2話
「いや~助かったよ!ありがとう」
辺りにいたヴィランを全て倒し終えた所で、タイミングよく青年から声をかけられた。
ほっと胸をなでおろし安堵した様子だったが、ところで、とすぐに警戒心を露わにする。
「…君たちはいったい?」
「あ、僕たちは旅をしていて…つい先ほどこの辺りに着いたのですが、良かったらここで何が起こっているのか教えてもらえませんか?」
「よそものか…もしかして外の世界から来たのか?」
「えぇと、そうですが…?」
青年は大きくため息をついて、嫌そうに顔をしかめた。その反応にタオが食って掛かる。
「おい、助けてもらっておいてその態度はないんじゃないのか?」
「だからお礼はさっき言っただろう。それとも何か、お礼に金品を要求しようって事か?」
「はぁ?!いや、そんなんじゃねぇけどよ…」
どんどん鋭さを増す青年にタオでさえも少し身じろぐ。会ってすぐの、しかもヴィランから助けたばかりの想区の住人にここまで警戒される事態というのは、今までにもちょっと経験がない。
そして僕は先ほどの青年の言葉が引っ掛かっていた。
想区の外に更に別の世界が広がっていることを知っている人物は少ない。僕たちのように、想区から想区を旅している空白の書の持ち主くらいだ。この人の言う、外の世界、とは、どういうことだろう?
待っても青年の口が開く様子がないため、仕方なく質問を続ける。
「あの、ここはどこなんですか?」
「そんなことも知らないのか?ここは外界の光の届かない地下世界。常夜の国だ」
「地下世界?なんでそんな所にわざわざ住んでいるの?」
横からレイナが口を挟む。青年は心底うんざりした顔で、忌々しそうに吐き捨てる。
「…俺たちが地上では生きていけない、呪われた種族だからさ」
思ってもいなかった言葉にみんな驚いて固まる。
「…え?それって…??」
「…もういいだろ。あんたたちには助けてもらった恩がある。だけど外の世界の人間には関わりあいたくないんだ。俺はもう行くよ」
「あ、ちょっと待って!最後に一つだけ!!この世界の主役が今どこにいるのかご存じないですか?!」
「主役?主役がどこにいるのかだって?!」
さっさと立ち去ろうと踵を返そうとした青年は、問いかけを聞いてまた態度が急変し僕に詰め寄ってきた。
「そんなのこっちが知りたいね!主役がどこかにいなくなっちまったせいでこの世界は…!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて…!何の話ですか?!」
話を遮って聞くが、僕の声など聞こえていないようだ。お構いなしにブツブツと続ける。この様子は尋常じゃない。
「変な怪物まで現れるし…あぁ、この先俺たちはどうなってしまうんだ…!全部あいつが悪いんだ…あいつのせいでこんなことに…!あいつがし………」
激高し声を荒げた青年が突如としてその場にうずくまる。大丈夫ですか?と声をかけようとしたその瞬間、青年の姿は影に飲み込まれる。
「…クルルルゥ」
「…!!ヴィランになった?!」
「見れば分かります!ぼーっとしてないで、戦いますよ!」
そう。ヴィランの正体は想区の住人。住人がヴィラン化する原因は主に二通りある。
一度ヴィランになってしまった住人をすぐに元に戻すことはできず、そうなってしまった原因を取り除き、想区を元の正常な状態に戻す事で、ヴィラン化した住人達も元に戻ることができる。そのため、今はとにかくヴィランを倒すしかない。
「「クルルルゥ…!」」
青年がヴィランに変わってしまったのを皮切りに、どこからともなく次々とヴィランが現れ、あっという間に僕たちを取り囲むまでの数になった。
みんな各々のヒーローとコネクトして臨戦態勢を取る。
数は多いが、強力な力を持つメガ・ヴィランなどはいないようだ。
「またこのパターンかよ」
「でも、今度は逆に囲まれてしまいましたね…」
「分かってるとは思うけど、くれぐれも洞窟へのダメージには気を付けて…!」
僕たちはお互いにお互いの背中を守りながら、確実にヴィランたちを倒していく。
「ふう。これで全部、かな?」
「強力な技で一気に蹴散らせないってのも、なんか疲れるな…」
「えぇ。フラストレーションが溜まりますね…しかし、こうしてヴィランが出るという事は、やはりカオステラーがこの想区にいるのでしょうか?どうですか、姉御」
「それがカオステラーの気配はしないのよね。多分だけど、この想区で元々の運命から外れるような何かが起こっているんじゃないかしら?想区の運命を元に戻そうとする力が働いてヴィランが発生しているんだと思う」
「そういえばさっきのヤローが主役は行方不明だって言ってたな」
主役が行方不明なんて、一体どういうことなのだろう…そう口を開きかけた瞬間、背後から物音が聞こえた。
「ガタンッ」
「!?」
「誰かいるの?」
レイナが部屋の隅へ声を投げる。見るとその一角には古ぼけた大きな木箱や樽などが積み上げられている。小柄な人間であれば充分に隠れることができそうだ。
「……」
木箱からの返答はない。
「そっちが出てこないなら、こっちから行くぜ?」
ゆっくりと慎重に、タオが木箱へにじり寄っていく。本当に誰かいるのか?もしかしたらヴィランの残党が?と動悸が早まる。
ザッザッ、と近づいているのが相手にもわかるように、タオはわざと音を立てながら一歩ずつ歩を進める。もうあと一歩で問題の木箱に手が届く―――
と、木箱から人影が現れた。
「あの!ご、ごめんなさいっ!!」
「おぉっ!」
「女の子!?」
そう。現れたのは小さな女の子だった。年齢はシェインより少し下くらいだろうか。まだ幼さの残る顔。灰色っぽい長い髪の毛を低い位置で二つに縛っている。
「あの、私、決して皆さんの事盗み見ようとした訳ではなくて!さっきの怪物に追われて、仕方なくここに身を隠していたんです!本当にそれだけなんです!だからどうか、命だけは!!」
「ちょっと待って!僕たち全然そんなつもりはないから!君に危害を加えたりはしないから大丈夫だよ。ねぇ!?」
「えっ。えぇ、そうね」
軽くパニックに陥っている少女を落ち着かせようと、レイナと共に慌てて弁明する。どうにかこちらの意思は伝わったようで、少女はほっと胸をなでおろした。
「ほ、本当に?…良かったぁ…」
「少し荒っぽかったわよね。こちらこそ、怖がらせてごめんなさいね。私はレイナ、こっちから順にエクスにタオにシェインよ。良かったらあなたの名前を教えてくれる?」
「あ、私は…ローリアと言います」
「ローリアね。…ねぇ、私たちこの世界の主役を探しているの。どこにいるのか知らない?」
「い、いえ…私も主役の方を探していて…そうしたら、あの怪物が現れて…」
「そう…良かったら、私たちも一緒に探すのを手伝っても良いかしら?」
「えっ?でも…」
彼女は戸惑いの表情を浮かべた。まぁ、初対面の人間にいきなりこんな事を言われたら誰だって困惑するだろう。
だが、僕たちも情報がないままこの地下の世界をさまようのは危険だ。
先程の様に不用意な発言で想区の住人を刺激するのも避けたいし、できればこの土地に詳しいガイドがいた方が良い。
レイナは彼女の警戒を解こうと柔らかい物言いで説得を続ける。
「あの怪物が出てきても、守ってあげられるし、あなたもその方が安全だと思う。それに私たちも、ここに詳しくないから困っていたの。あなたに案内してもらえると助かるわ。ねぇ、皆?」
レイナに同意を求められて、皆全力で頷く。
そうですね…と、ローリアは困ったような顔で僕たちを見つめる。僕たちが本当に信用できるのか考えているようだった。先程の青年の事もある分、少し緊張してしまう。
彼女はひとしきり悩んで、ようやく結論が出たらしい。薄い琥珀色の瞳で僕たちを見つめなおし返事を告げた。
「はい。それでは、お願いします」
「良かった!よろしくね」
「ところで、ローリアは主役の人とは知り合い?名前は分かる?」
「いえ、面識はありません。でも…。この想区の主役の名前はノーチェ。私と同じくらいの年の男の子です」
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