第88話 エルフとお土産②
お盆シーズンが終わった。
それに合わせて、実家に帰ってたお客さんたちがわんさか来るようになったよ。
うちのコンビニも例に漏れず、みんな実家のほうへと帰っていた。
今日は異世界のほうに里帰りしていたみんなが戻ってくる日だね。
「うっす」
「あ、オークくん。お疲れさま」
「トシオさん。お土産っす」
そう言って差し出されたのは、オーク族のお土産の定番『特製オーク饅頭』だ。
うーん。GWの既視感が……。
まあ、美味しいから嬉しいんだけどね。
「ありがとう。みんなでいただくね」
「うっす。掃除に行ってくるっす」
そう言って、彼はバックヤードへと行ってしまった。
さーて。オークくんの名前を書いて、事務室に置いて、と。
ぼくが店のほうに出てくると、入店のベルが鳴った。
「トシオどの、久しぶりだな!」
姫騎士ちゃんだった。
「あ、姫騎士ちゃん。久しぶり。ご実家はどうだった?」
「うむ。久しぶりに母上たちに会えて、有意義な休日だったぞ」
「そういえば、お姉さんといっしょに帰ったんだっけ」
「そうだ。姉上はしばらく向こうにいるということだったから、わたしだけ戻ってきたのだ」
「ありがとう。ぼくも明日から休みだったから助かるよ」
「む。トシオどのはお盆に実家のほうに帰らなかったのか?」
「ほら、この時期はどうしても他に里帰りしたいってひとが多いからね。ぼくはずらしたんだ」
「そうなのか。すまないな」
「まあ、特に実家ですることもないからさ」
実家も都内だから、その気になればすぐ帰れるしね。
「あ、そういえば姫騎士ちゃん。オークくんがバックヤードで掃除してるから手伝ってあげてくれないかな」
「むむ。そう言われては断ることはできないな。なんせ、わたしは誇り高き姫騎士だからな! 仕方ないからオークも手伝ってやろう!」
そう言いながら、嬉しそうなステップでバックヤードに向かう姫騎士ちゃん。
うーん、わかりやすい。
お盆の間、会えなかったからねえ。
そして、今日のシフト最後の一人がやってきた。
「トシオ! お疲れさまです!」
「あ、エルフちゃん。お疲れさまー」
エルフちゃんは楽しそうに近づいてきた。
「ご実家はどうだった?」
「よくぞ聞いてくれたんよ! お盆はエルフ族ではお祭りやからね! お姉ちゃんたちと踊ってきたん!」
「へえ。それは面白そうだねえ」
するとエルフちゃんは、バッグをごそごそ漁った。
「あ、それより、トシオにお土産があったん!」
「え。そうなの?」
わあ、嬉しいなあ。
「ふっふっふ。これはトシオはぜったいに喜ぶ自信があるん!」
「へえ、なにかなあ。エルフ族のお土産なんてピー助くらいしか……」
「はい、これ!」
差し出されたものを見て、ぼくは言葉を失った。
「……エルフちゃん、これは?」
それは、うちのコンビニで売ってる菓子パンだった。
すると彼女は、目を輝かせながら言った。
「羽田空港に、うちのコンビニの自販機があったん! ここで売ってるのが自販機で買えるんよ! すごくない!?」
「……そ、そうだね、すごいねえ」
そういえば、ゲートって羽田空港から飛行機で通っていくんだっけ。
「トシオはバイト好きやし、ぜったいに喜んでくれると思ったん!」
「う、うん。ウレシイナア」
ぼくは精一杯の笑顔で応えた。
だって、エルフちゃんのこの笑顔、裏切れない……!
「……あれ?」
ぼくはふと、その菓子パンを裏返した。
「これ、賞味期限が過ぎてるんだけど……」
「うん! 出発ロビーにしかなかったから、里に帰るときに買ったん!」
「そ、そうかあ。ありがとうねえ……」
ぼくはその菓子パンを、バッグに入れた。
「こ、ここじゃ食べれないから、帰っていただくよ。ありがとう……」
「うん!」
エルフちゃんは、それはそれは眩しい笑顔で言ったのだった。
……うーん。
まあ、ピー助よりはマシかなあって。
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