第87話 エルフとコンビニ受け取り②


 ――いよいよ謎は迷宮入りの様相を呈した。


 石本少年によれば、コンビニはここで間違いないらしい。

 エルフちゃんとオークくんは、二人そろって頭を抱えている。


 監視カメラ越しに状況を見守るぼくも、思わず手に汗握る展開だぞ。


『マルカリからの配送だったら、発送のお知らせメールが来てるはずっす』


 メールに支払い番号とかが載ってるから、それを登録してお会計をするんだね。


『そ、それなん!』


 ふたりは慌てて、石本少年の携帯電話を覗いた。


『……来てないっすね』


『…………』


 石本少年が、不安そうに言った。


『で、でも発送したってメッセージ入ってますけど……』


 確かに出品者から発送を完了したという旨のメッセージが届いているようだった。


『……わからないっすね』


『……うち、もうダメなん』


 さすがのオークくんもお手上げのようだ。


『詐欺かもしれないっすね。支払いは?』


『あ、着払いだから、まだ……』


 ぼくはふと、カップ麺を食べる手を止めた。


「…………」


 待てよ。


 着払いの荷物?


「……まさかなあ」


 昼に交代するときに、そんな引継ぎの言葉を聞いたような。


 ぼくは監視カメラを操作すると、朝の映像を回した。

 そこには今日、朝番だった姫騎士ちゃんとサキュバスちゃんが映っている。


『ていうかあー。姫騎士さんって、ほんとに姫騎士族のお嬢さまなんですかあー?』


『ど、どういう意味だ!』


『だってえー。姫騎士族って、高潔で誇り高い一族(笑)なんでしょー? ちょっとイメージできないですよねえー』


『貴様、汚らわしい闇の眷属の分際で言ったな! 決闘だ!』


『ぷぷー。また段ボールの片づけサボって店長に怒られてたじゃないですかあー。そもそも闇の眷属のオークさんに惚れてる時点で、説得力皆無っていうかあー』


『ぐ、ぐぬぬ……。殺せ!』


 うーん。このふたり、いつも同じ会話してるよなあ。


 と、そこへ宅配便のお兄さんがやってきた。


『すみません。サインをお願いします』


『あ、はーい』


 サキュバスちゃんが、キュッキュッと荷物に軽やかなサインをする。


 でもそれ、アイドルのサインだよね?


 案の定、お兄さんは困っている。


『あ、あの、荷物の受け取りなんですけど……』


『あ、やだあー☆ わたしったら、いつもの癖が出ちゃいましたあー。てへっ』


『……貴様、さすがにそのキャラクターはどうかと思うぞ』


『うっせえーですよドḾ姫騎士。略してマゾ騎士』


『な、なんだとう!? 言いがかりはやめろ!』


『はあ? だってえー。このまえ部屋に行ったとき、タンスの中にオーク×姫騎士のハードなレディースコミックが……』


『や、やめろおー! くそ、こうなれば潔く腹を切るまで……』


 ……いまのは聞かなかったことにしておこうね。


『あの、着払いの荷物なんですけど……』


 そこでやっと、お兄さんが割って入る。


『荷物?』


『えーっと。この店の、石本さん宛で……』


 ふたりは顔を見合わせた。


『うちに石本などはいないぞ?』


『え。でも、確かにこの店の住所なんだけど……』


『店違いですよおー。置いてかれても困るので、持って帰ってくださーい』


『は、はあ。……あれ、おかしいなあ』


 ……なるほど。

 マルカリを通さずに、普通に宅急便で送っちゃったんだねえ。

 確かにこれなら、確認メールも荷物も来ていないはずだ。


 そこで止めて、現在の映像に戻した。


「……あれ?」


 すると、なぜかエルフちゃんがサラマンダーを構えて魔法を使おうとしていた。


『う、うちは役立たずやないん! この店を焼き尽くしてでも荷物を見つけ……!』


「わあー! エルフちゃん、待った待った!」


 ぼくは慌てて事務所から飛び出すと、間一髪のところでエルフちゃんを止めたのだった。




 ※オークくんの豆知識


「ネットフリマをご利用の際は、サイトの手順をよく確認して送りましょうっす。最近は専用の配達システムもあるから、そっちが便利っすよ」


 おしまい

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