第86話 エルフとコンビニ受け取り①


 コンビニは便利なもので、それはもうたくさんのことができる。


 半面、その適切な利用にもそれなりの知識が必要なものが多い。

 はっきり言って、そのすべてを理解しているバイトはいない。


 最近は荷物の受け取りなんかが便利だけど、今日はそれで起こったトラブルをご紹介しよう。


 ――それはある日、ぼくの休憩中に起こった。


 夜のピークに入る前の腹ごしらえ。

 ずるずるカップ麺を食べていると、ふと監視カメラの映像に変化が起こった。


 中学生くらいの男の子が、緊張した様子でレジにやってきた。


『あ、あの、おれ石本です!』


 それを聞いたエルフちゃんは、ハッとした顔で答えた。


『うちはエルフなん!』


 しーん、と場が静まり返った。


 うん、まあ、いきなり名乗られたらそうなるよね。

 エルフちゃんは礼儀正しいなあ。


 ……じゃないね。


 すると石本少年は、自分の言葉が足りなかったことに気づいたようだ。


『あの、荷物が届いてるはずなんですけど』


『……荷物?』


 エルフちゃんは少し考えて……。


『オークさん。忘れ物ありますか?』


 オークくんが棚の間から出てきた。


『うっす。ないっす』


『あ、違くて……』


 ふたりは首をかしげながら、石本少年を見る。


『ま、マルカリの……』


『マルカリ?』


 するとオークくんが気づいたようだ。


『あ、ネットフリマっす』


『それです!』


 しかしエルフちゃんにはよくわかっていない。


『なんですか?』


『ネットで自分の持ち物を出品して、それを欲しいひとが買い取るやつっす』


 名前の通り、ネット上で行うフリーマーケットのことだね。


 一般の方が必要なくなったものを出品して、それを買い手が購入する。

 オークションとの違いは、主に出品者が値段を設定すること。


 想定しやすいトラブルといえば、やっぱり個人情報の扱いだ。

 ネット上で行うものだから、当然ながら商品は配達業者を利用する。

 となると、当然ながら住所などの情報をやり取りすることになるんだ。


 で、やっぱり自宅の住所を知られたくないってひとはいる。

 購入したことを家族に知られたくないってひともいる。


 そんなひとに活用されるのが、商品のコンビニ受け取りだ。

 ネットフリマは配送方法も交渉できるから、これがけっこう需要は高い。


 石本少年も、きっとなにかしらの理由でコンビニ受け取りにしたんだろう。


 なんだけど……。


 ――ガチャ。


「うっす。トシオさん」


「あ、聞いてたよ。でもおかしいね。今日は受け取りの荷物、ひとつも来てないんだけど」


「そうなんす。コンビニ間違えてるんすかね」


「あー。あるかもね。一応、聞いてみて」


「うっす」


 そうして、オークくんは店のほうに戻っていった。

 ぼくはのんびりと、カップ麺をずるずる食べていた。



 ――しかしそれは、大いなる謎の幕開けだったのだ。



 ※まさかつづくとは思いませんでした。


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