第84話 エルフと休憩時間の過ごし方2
『うひぃーっひっひっひ』
「…………」
『うひゃひゃひゃひゃひゃ。無様なんねえ。ほら、おまえなんかこうしてやるんよ。ほれ、ほれ。うひひひひ』
今日もうちのコンビニに、魔女の笑い声のようなものが響く。
そのあまりのおどろおどろしさに、お客さんたちが顔をしかめていく。
「……あの、トシオさん」
「うん。わかってるんだけどね」
ぼくとオークくんは、事務室へとつながるドアを見つめた。
『ひぃっひっひっひ。うりうり、おまえは屈辱に顔をしかめるのがお似合いなんよ』
「…………」
そのドアを開けて中を見た。
「あ、トシオ。どうしたん?」
エルフちゃんが、こちらを見た。
その手元には、ピー助が床にひっくり返って脚をじたばたさせている。
「……エルフちゃん。なにやってるの?」
エルフちゃんはきょとんとした顔で答えた。
「ピー助をひっくり返して遊んでるんよ」
「いや、それは見ればわかるんだけど」
エルフちゃんがピー助の丸い身体を両側から掴むと、ぐりんとひっくり返す。
ピー助はばたばたと翼のほこりを払うと、ふいーっとおじさん臭そうな仕草をする。
「……なんでひっくり返してるの?」
「ピー助、身体が大きくなりすぎて飛べないん」
「うん」
「だからこうすると……」
エルフちゃんがピー助の両側を掴む。
ぐるん。
ピー助はしばらくぼんやりしていたが、やがてばたばたと脚で宙を蹴り始める。
「ね?」
いや、ね、じゃなくてね。
「……エルフちゃん。さすがにピー助が可哀そうだよ」
「あっ」
さすがに動物をいじめるのは見過ごせないな。
ぼくはピー助を助けようと、手を伸ばした。
――ビシッ!
ぼくの手が、ピー助の足の爪に引っかかれた。
「…………」
あ、あれー。
じたばたしているし、当たっちゃったかなあ。
再度、手を伸ばす。
――バシッ!
今度は、より明確な意思を持って弾かれた。
「…………」
ぼくはピー助の顔を覗き込む。
その目に、明らかな敵意が見て取れるような……。
「……じゃ、じゃあ、エルフちゃん。ほどほどにね」
「うん!」
ぼくはそっと、ドアを閉める――ふりをして、そっと中を覗き込む。
『うひゃひゃひゃひゃ。ここなん、ここがええのんか?』
『ぴぴ、ぴ……』
『ひひひひひ。助けてほしければ、もっと泣きわめくんよ』
ぐるんとひっくり返されて、じたたばたともがくピー助の顔。
それは、どこか恍惚とした充足感に満ちているような気がした。
「……トシオさん。どうしたんすか?」
「……いや、なんか、ぼくの知らない世界を垣間見たような気がしてね」
……まあ、本人たちがそれでいいならいいんだけどね。
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