第83話 エルフと代行収納
代行収納。
電気料金や年金、あるいはお買い物の支払い。
そういったものを、コンビニで受け付けるサービスだ。
社会人であれば、一度くらいは経験があるよね。
これが簡単に見えて手順が多い。
金額の確認。
支払い。
控えの手渡し。
そして残った伝票の処理。
手順が多いと、それだけトラブルの可能性も高まる。
それに住所や名前、ときには電話番号など、個人情報の塊ともいえる。
ということで、代行収納はお客さんが思っているよりもずっと神経を使うものなのだ。
で、だ。
はっきり言って、これはとても面倒くさい。
トラブルが多いと言ったけど、これは店側のものだけではないのだ。
封筒を開けずに丸ごと持って来たり。
不必要な部分を切り離さずに持って来たり。
逆に必要な部分を失くした状態で持って来たり。
そのくせ処理に時間がかかると怒鳴りだしたり。
期限切れの用紙を持ってきて、払えないのをなぜか店側の責任にしたり。
手数料をなぜか店側で負担しろと言って聞かなかったり。
そもそもバーコードのついた用紙じゃないとコンビニでは支払いができません!
平日に最寄りの銀行か郵便局へ行ってください!
……決してぼくの愚痴を垂れ流しているわけじゃないよ。
あくまで一般論としてね。
そして今日、ぼくが休憩から戻ると、レジにそれはもう長蛇の列ができていた。
おかしいな。
この時間に、こんなに並ぶはずがないんだけど。
慌ててレジに戻ると、エルフちゃんがフルテンパりモードであたふたしている。
その目の前には、若いカップルさんが立っていた。
「エルフちゃん。どうしたの?」
「あ、と、トシオ……」
そのレジカウンターの上を見て、ぼくは目を疑った。
大量の百円玉が、ビニール袋に詰め込まれて置いている。
その隣には、五百円玉が同じようにあった。
これは、いったい……。
お客さんは不機嫌そうな顔で、腕を組んでいる。
「まだですかあー?」
「しょ、少々、お待ちください」
えーっと……。
あれ?
ぼくはレジの表示を見て、すべてを納得した。
代行収納。
内容はクレジットカードの支払い。
その額、十万円近く。
その十万円を、なぜか硬貨のみで支払おうとしているのだ。
「ど、どどど、どうしよう!」
それをエルフちゃんは、律儀に一枚ずつ数えながらカウンターに積んでいる。
これではいくら時間をかけても終わらないはずだ。
「待って、エルフちゃん。こういうときは、コインケースを使うんだ」
コインケース。
硬貨を五十枚ずつ収納できる小物アイテムだ。
ぼくらは空のコインケースを大量に引っ張り出して、片っ端から詰めていった。
そして積みあがったケースの山。
百円ケースは、一本五千円。
五百円ケースは、一本二万五千円。
その数を数えて、合計金額を出す。
そしていつもの手順を踏んで、お会計を済ませた。
「ありがとうございましたー」
「チッ。はやくしろよなあ」
……いったい、どっちが原因なんだろうねえ。
とまあ、こういうトラブルもあったりする。
貯金箱からかき集めてきたのかなあ、なんて思うけど、そういう詮索はあまり好ましくないよね。
「トシオ、ありがとう。助かったんよ……」
お客さんの列を捌いたあと、エルフちゃんが言った。
でも、ぼくの心はどうにも穏やかじゃなかった。
「…………」
「ど、どうしたん?」
「エルフちゃん。一応、レジのお金を計算しておこうか」
「え?」
ぼくはレジの精算作業を行った。
これはレジ内の金額がデータと合っているか計算するものだね。
「……あわわわわ」
エルフちゃんが青い顔で震えている。
その画面に映っていた数字は『+1000』。
つまり、お客さんから余計に1000円多くもらってしまったということだ。
「ど、どうしてなん!?」
「……これだね」
ぼくはレジの脇に挟まっていたコインケースを拾い上げた。
その中には、百円硬貨が十枚だけ入っている。
たぶん、あのドタバタの中で転がり込んでしまったのだろう。
「ど、どうするん!?」
「まあ、どうしようもないねえ。お客さん、もう帰っちゃってるわけだし」
「…………」
エルフちゃんの目が、きらりと輝く。
「……これ、言わんかったら誰にもわからんのやね」
「エルフちゃん!?」
やっぱりちょっと怒ってるね!?
そして宙に浮いたこの1000円は、店長の手で速やかに処理されたのだった。
※こんな事故を防ぐためにも、お金は数えやすい形にして持ってきてね!
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