第82話 オークと姫騎士とお土産
「お疲れさまっす」
「トシオどの! お疲れさまだ!」
「あ、オークくん、姫騎士ちゃん。お疲れさま」
エルフちゃんのピー助騒動の翌日。
オークくんと姫騎士ちゃんも実家から戻ってきた。
「……トシオさん。ひとつ聞いてもいいっすか?」
「なに?」
「アレ、なんすか?」
オークくんは店の前のベンチを指さした。
うちには駐車場の隅に、喫煙所を兼ねた休憩所があるんだ。
「えーっと。うーん……」
そのベンチを占領する、丸い物体。
そう、ピー助だ。
なんとか焼き鳥を免れた彼は、エルフちゃんのバイト中はあそこで待機していることになったのだ。
「オークくんも知らないの?」
「そっすね。自分は見たことないっす」
そこへ姫騎士ちゃんが着替えてやってきた。
「あれは霊鳥だな」
「霊鳥?」
「守り神の一種だ。エルフの信仰する神の使いとされていて、彼らの森に多く生息していると聞いたことがある」
「へえ。それはありがたいんだねえ」
そんなの持ってきて大丈夫なのかな。
まあ、そこらへんはエルフちゃんのほうがわかってるか。
見ると、近所に住む学校帰りの子どもたちがピー助の周りに集まっている。
みんな楽しそうにピー助をなでていた。
さすが神の使い。
そのありがたい力は人間にも伝わるらしい。
と、子どものひとりがピー助を抱えた。
「あっ」
ダムダムダム。
バスケットボールよろしく、地面にバウンドされて遊ばれるピー助。
「え、エルフちゃん!?」
「なんですか?」
「ぴ、ピー助が!」
ちらと見ると、エルフちゃんは平然と言った。
「喜んでるから大丈夫です」
「え?」
見ると、ピー助から謎の幸福オーラが出ている。
「…………」
まあ、本人たちがそう言うなら。
「あ、トシオさん。お土産っす」
「わあ、ありがとう」
オークくんから受け取った包みには『特製オーク饅頭』と書かれていた。
オーク族の顔を象ったあんこ菓子だ。
「……なんか、食べづらいんだけど」
「地元ではポピュラーっすから」
「そうなんだ……」
すると姫騎士ちゃんが声を上げた。
「わたしもあるぞ!」
「そうなの?」
そして差し出された箱を見て、目を丸くした。
その包みには『特製オーク饅頭』と書かれている。
「……姫騎士ちゃん。もしかしてオークくんの実家に遊びに行ってたの?」
「な、なにを言うか! わたしはちゃんと自分の実家に帰ったのだ!」
顔を真っ赤にして否定するんだけど、ここに物証があるんだよなあ。
「オークよ! なぜわたしと同じものを持ってくるのだ!」
「おれに言われてもっすけど……」
どういうこと?
「トシオ。違いますよ」
「エルフちゃん?」
「姫騎士族の国はオーク族の谷のすぐ隣にあるんです。だから特産品とかもいっしょなんですよ」
「え? そうなの?」
「はい。ずっと昔、戦争が終わったころに姫騎士族がそこに引っ越したってお姉ちゃんが言ってました」
「なんで!?」
確かオーク族と姫騎士族って、仲が悪いんじゃなかったっけ?
「……あっ」
エルフちゃんの微妙な顔を見ていると、ふとひとつの答えが浮かんだ。
……もしかして姫騎士族って、みんな姫騎士ちゃんみたいに?
ぼくはオークくんにつっかかる彼女を見ながら、なんともやるせない気持ちになっていた。
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