第81話 エルフとお土産


 GW明け。

 誰がなんと言おうとGW明けだ。


 長期休暇には、うちのバイト先でも帰省するひとたちが出てくる。

 特にここは異世界人が多いから、シフトに穴が開いて大変だ。

 そういうときに、フリーターや地元の学生さんは助っ人で忙しくなる。

 まあ、ほとんどぼくなんだけどね。


 とはいえ、いつも頑張ってくれているし、こういうときこそ労わってあげなきゃ。


 そんな休み明け。

 エルフちゃんがきらきらした瞳でバイトにやってきた。


「トシオ! お疲れさまです!」


「あ、お疲れさま」


 おー。

 あの死んだ魚の目が、ここまで輝いてまあ。

 ずいぶんと楽しかったみたいだな。


「楽しかった?」


「うん! 久しぶりにあっちの空気を吸ってきて、元気満タンなんよ!」


 うんうん。

 やっぱりエルフちゃんはこうでなくちゃな。


「それはよかった。ところで……」


 ぼくは彼女の頭の上に乗っているものを見た。


「……それ、なに?」


 さっきから気になっていたもの。

 エルフちゃんの頭の上に、一羽の鳥が乗っているのだ。


 見た感じ、雀のような形をしている。

 でも、それは明らかにこっちの世界の鳥じゃないとわかる。


 とても大きいのだ。

 バスケットボール大の雀なんて、この世界には存在しない。


 エルフちゃんは、上の鳥を指さした。


「ピー助なんよ」


「うん。……うん?」


「だからピー助なんよ」


「うん。あ、名前?」


「それ以外になにがあるん? トシオ、変やねえ」


 うーん?

 あ、そうか。

 ぼくの感覚とエルフちゃんの感覚は違うもんね。


「ピー助は、どうしてエルフちゃんと来たの?」


「あれ。トシオは光合成してるとき、ピー助が頭に乗ってきたことないん?」


「……いや、ないかなあ」


 いま、さらっと光合成とか聞こえたけど、ここは無視しておこうね。


「あ、トシオ。そういえば、お土産あるんよ」


「え、ほんと? わあ、ありがとう」


 そう言うと、エルフちゃんはズボッとピー助のモコモコの中に手を突っ込んだ。


「はい!」


 そして差し出されたのは、見紛うことなき玉子。

 しかも、野球ボールサイズの大判だ。


「え、エルフちゃん? 玉子は、ちょっと……」


「え。ダメなん?」


「え、えーっと……」


 エルフちゃんの表情が、しゅんと落ち込んでいく。


「う、うち。また間違ったん?」


「……うん、ありがとう。もらうよ」


 結局、罪悪感に勝てずにもらってしまった。

 大きな玉子を。


 ……これ、どうしよう。


「でも、エルフちゃん。ずっとそのままでいる気なの?」


「うん。ダメなん?」


「あのね。コンビニって、基本的にペット禁止なんだ」


「……え?」


 エルフちゃんが青い顔になり、そっとピー助を腕に抱えた。


「……ピー助」


『ピー……』


「おまえ、ここにいたらいけないんやって」


『ピー……』


 ピー助が悲しそうに鳴いた。

 エルフちゃんは、ぐっと涙を拭った。


 ……なるほど。

 きっとひと時も離れたくないくらいに、仲よしなんだね。


 微笑ましく見ていると、ふとエルフちゃんが振り返った。


「トシオ」


「うん?」


「焼き鳥つくる鉄板ってどこやったっけ?」


「エルフちゃん!?」


 異世界の奥地で、狩猟生活を送るエルフ。

 その生態は、いまだ謎に包まれている。

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