第79話 エルフと休憩時間の過ごし方


Q.休憩時間はなにをしていますか?


 ……自分っすか?


 そうっすね。

 普段は本を読んでるっす。


 ――本というと?


 だいたい大学の課題っすね。

 あと、たまには文庫を。


 ――勉強家なんですね。


 普通っす。


 ――ありがとうございました。


 うっす。




Q.休憩時間はなにをしていますか?


 わたしか?


 そうだな。

 姫騎士は誇り高き一族。

 お父さまの名に恥じぬように、常日頃から鍛錬を怠ったことはない。

 もちろん、休憩中も常に己を磨いている。


 ――でもこの前、椅子に座っていびきをかいている姿が目撃されていますが。


 な、なんだと!?

 誰だ、そんなでたらめを言うやつは!


 顔を隠して他人を攻撃するとは許せん。

 決闘だ!


 ――情報提供者はオークさんです。


 …………。

 まあ、今回だけは許してやろう。


 ――ちょろいですね。




Q.休憩時間はなにをしていますか?


 ……なんですかあー、この茶番?


 ――いいから。


 もう、しょうがないですねえ。


 そうですねえ。

 休業中とはいえ、やっぱりアイドルじゃないですかあー。

 となると、やっぱりファンサービスは欠かせませんよねえ。


 ――コンビニでファンサービス?


 ほらー、いまって携帯でいつでもファンに情報を発信できるじゃないですかあー。


 この前も、新発売の商品とかブログにアップしてましたねえー。

 もちろん、わたしの可愛い顔写真もいっしょにですけどー。


 ――お仕事熱心ですね。


 それほどでもないですよー。

 あ、この前もおもしろい写真があったんですよー。


 ――見せていただけますか?


 どうぞー。

 ほらあー、エルフっ子がバケツをひっくり返して転んでる写真ですよー。

 パンツ丸見えで、ほんとエルフってどんくさいですよねえ。


 ――…………。


 熱ッ!

 ちょ、やめてください!

 サラマンダーはやめ……、やめろ――――!




Q.休憩時間はなにをしていますか?


 ……サキュバスちゃんが、火のついた制服を持って飛び出していったけど?


 ――気にしないでください。


 いや、気にするなって無理だよ。


 ――気にしないでください。


 まあ、そう言うなら……。

 ところで、休憩時間だっけ?


 ――はい。


 そうだなあ。

 ぼくはあんまり、事務所であれこれするタイプじゃないかな。


 ――ということは、ご飯を食べてすぐ店のほうへ?


 あー、さすがにちょっと休んだりするけど。

 でもコンビニの休憩時間って、あってないようなものじゃない。


 ――というと?


 ほら、うちみたいに少人数で回しているところだと、ひとりが休憩すると店のほうはひとりだけになっちゃうよね。


 ――はい。


 そんなときにレジにお客さんが並ぶと、ヘルプで店に出たりするじゃない。

 クレームのときも同じだしね。


 ――そうですね。


 だから、あんまり休憩してるって感覚がないんだよね。

 休憩中はお給料が発生しないから、ちょっともったいない感じはするけど。


 ――そんなにもうひとりのバイトが使えないんですか?


 え、それ答えないとダメ?


 ――できれば本音を聞きたいです。


 ……つ、使えないわけじゃないんだけど、ちょっと目が離せないとは思うかな。


 ――ちなみに、そのバイトとは?


 ……えーっと。

 ぼくは、だいたいその子といっしょに入ってるかな。


 ――あ。


 …………。



 …………

 ……

 …



「……トシオの言いたいことはわかったん」


「いや、エルフちゃん。べつにきみが悪いって言ってるわけじゃなくて」


「うちのことポンコツエルフだって馬鹿にしてたん」


「ち、違うって! エルフちゃんが頑張ってるの知ってるしさ。ちょっと間が悪いっていうか、運が悪いっていうか……」


「…………」


 すっかり拗ねてしまっている。

 これは機嫌を直してもらうのにしばらくかかりそうだなあ。


「……ていうか、これなに?」


「学校の社会学習の一環で、働いてるひとにインタビューして来いって言われたん……」


「へ、へえ」


 ……そもそも、なんでこのテーマにしたんだろうねえ。

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