第78話 エルフとお花見


 ある晴れた日曜日。


「はあ……」


 珍しくエルフちゃんがため息をついている。


「どうしたの?」


「……今朝、テレビを見たんです」


「うん?」


「今日は桜が満開だそうですね。ニュースで場所取りのひとを映してました」


「あー、そうだねえ」


 うちでも今朝から、大口の注文の準備で忙しかったなあ。


「お花見したい……」


「へえ。エルフちゃん、そういうの興味あったんだねえ」


「エルフ族は自然とともに暮らす種族……。そういう自然感あふれるイベントにはレーダーがびんびんなのです」


 びんびんなのかあ。


 でも、うちの近くに桜なんてないしなあ。

 遠出しようにも、今日も夕方までここでシフトだし。


 とはいえ、天気予報では明日からしばらく雨だ。

 次に晴れたときには散っているだろう。

 申し訳ないけど、今年はエルフちゃんの希望をかなえてあげるのは難しそうだな。


「あ、そうだ!」


 と、エルフちゃんが突然、店の外に出た。


「どうしたの?」


 すると彼女が、腰に手を当てて不敵に笑った。


「ふっふっふー。うち、思いついたん!」


「なにを?」


「咲かぬなら咲かせてみよう、なんよ!」


「はい?」


 エルフちゃんが見上げるのは、うちのコンビニにある謎の大木。

 前にエルフちゃんがうっかりパンジーの花を巨大化させたものだ。


「いでよ、ノーム!」


 前と同じように、大地の精霊を呼び出した。


「これに桜の花を咲かせるんよ!」


「いや、エルフちゃん。それはさすがに……」


 ほわわーん。


「できたん」


 マジで?


「うわあ、ほんとだあ」


 なにがどうしてこうなったのかは知らないけど、確かに目の前に満開の桜の花が咲いていた。


「これでバイトしながらお花見できるんよ!」


「わあ、すごいねえ」


 そう思っていると、ふと近所のおばさんがやってきた。


「あら、すごいわあ。お隣さんにも教えなきゃ」


 ……おや?



 その噂は瞬く間に広がって……。



「エルフちゃん! 焼き鳥セット六人前追加!」


「あ、あう……」


「トシオさん、椅子が足らないっす!」


「事務所のも出しといて!」


「トシオどの、お花見客のせいで車が止められないとクレームが……」


「うわあー、シートの外には出ないようにって言ってるのに!」


 日本人って、どこでもお花見始めるよねえ。


「……疲れた」


 結局、ぼくらが仕事を終わることには散ってしまっていましたとさ。


「来年はもっとこっそり咲かすんよ!」


「いや、ちゃんとお花見連れてってあげるから……」

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