第75話 サキュバスとホワイトデー
「はい、エルフちゃん」
「わ、トシオ! ありがと!」
今日はホワイトデー。
そこでぼくは、エルフちゃんにバレンタインのお返しをしたのだ。
「え、でもトシオ……」
「なに?」
「お、男のひとがホワイトデーにお返しするのはごにょごにょ……」
うん?
「なに?」
「な、なんでもないん!」
彼女はなぜか顔を真っ赤にして事務所に逃げて行った。
どうしたんだろう?
ぼくが首をかしげてると、ふと後ろからドンッと体当たりされた。
「セーンパイ!」
「うわ、サキュバスちゃん。どうしたの?」
彼女は上目遣いに、唇に人差し指を当てた。
「いまぁー、あのエルフっ子になに渡してたんですかぁー」
「え? あ、いや。ホワイトデーのお返しをね」
するとサキュバスちゃんが肘を入れてきた。
ドス。
ドスドスドス。
「な、なに?」
「ひどーい。センパイ、わたしだってセンパイにチョコあげたじゃないですかぁー」
「いや、もらったもなにも……。そもそも、あれつくったのぼくだよね?」
「あー! そういうこと言うんですかぁー。わたし、センパイのこと信じてたのにぃー」
うえーん、とわざとらしく泣く真似をする。
うーん。
彼女のこのわざとらしい感じ、いまだに本気かウソかわからないんだよなあ。
と思ってると、彼女がべっと舌を出す。
「って、冗談ですよぉー。わたしぃー、むしろお返し貰いすぎて困ってるくらいなんでぇー。じゃ、今日もアルバイトがんばりまーす」
と、ルンルンと事務所に向かう彼女を引き留める。
「はい、サキュバスちゃん」
「え?」
「いや、ホワイトデーのお返しだよ」
「お、おか……? でも、用意してないって……」
「ごめんね。いつもからかわれてばかりだから、ちょっと意地悪したくなっちゃったんだ」
彼女にクッキーの包みを渡す。
まあ、アイドルの彼女にとっては安物だけどね。
「…………」
「サキュバスちゃん?」
すると、どうだろう。
彼女の顔がみるみる赤くなってしまった。
「ち、違いますよ、違います! わたしほんと、お返しとかもらいまくってるんで! これ初めてとかじゃないんで! アイドルはほら、ファンから送られてくるんで!」
「え、あ、うん」
「あ、でもどうしよう! あれですよね。ホワイトデーお返しをするってことは、もしかしてセンパイ、わたしのこと……?」
「はい?」
「きゃあ――――っ! やめて、やめてください! わたし活動休止中ですけどアイドルなんで! そういうのパパラッチされたら困るんで! あ、でも本気だって言うなら考えてあげても……、って、なに言わすんですかぁ――――!」
バシーン。
マシンガンのごとくまくし立てると、最後に左頬に一発、鋭いのをお見舞いして事務所に逃げて行った。
……なんなんだ?
「うっす。お疲れっす」
「あ、オークくん」
「どうしたんすか? その頬の手形……」
「あぁ、それが……」
かくかくしかじか。
「え。異世界ではホワイトデーのお返しは求愛のしるし?」
「うっす。ある王国でやってから広まったんすけど、わりとガチなやつっすね」
「あぁ、それで……」
ふたりの反応の意味がやっとわかった。
うーん。
誤解は解きたいけど、わざわざ自分から言うのもなあ。
でもまあ、とりあえずは……。
「じゃあ、この姫騎士ちゃんへのは自分で食べちゃおうかな。オークくんも食べる?」
「……いえ。自分、そういう趣味ないんで」
あ、その慣例、男性がもらっても適用されるんだね?
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