第74話 エルフとさよならの季節
――春。
それは出会いの季節であると同時に、耐え難い別れの季節でもある。
住み慣れた場所。
通い慣れた学校。
そして、大好きだったあのひと。
それでもぼくたちは、前を向いて生きていかなきゃいけない。
新しい出会いに、また慣れていかなきゃいけない。
そうすればきっと、いつかまた出会えるはずだから――。
「……本当に、行ってしまうん?」
エルフちゃんが、悲しそうに言った。
彼女の目に光っているものは、涙以外の何物でもなかった。
「……エルフちゃん。離してほしい」
「嫌なん! うち、この手を離さん!」
「エルフちゃん!」
思わず大声になってしまった。
彼女はびくっと震えて、ぼくの制服の袖を離した。
「……ぼくだって、本当は嫌なんだ」
「で、でも……」
「わかってほしい。エルフちゃん。時間がないんだ」
「…………」
エルフちゃんが、くっと目をつむった。
「でも、うち、やっぱり好きなん!」
ぼくはこぶしを握り締めた。
「……ぼくだって、そうさ」
でも、やらなきゃいけない。
だって、ぼくは先輩だから。
彼女が正しい道を進んでいけるように、導いてあげなきゃいけない。
エルフちゃんに背を向ける。
そして、一枚の紙をそれに貼りつけた。
――ぺた。
『肉まん・完売しました』
エルフちゃんが叫んだ。
「嫌なん! うち、やっぱり諦めきれん!」
「しょうがないでしょ! もう本部に在庫がないからどうしようもないの!」
「嘘や! うち知っとるん! 実は大きい倉庫にあるってオークさんが言ってたん!」
「それをうちのコンビニに仕入れることはできません! ほら、早くレジに入って! お客さんたち待ってるよ!」
「嫌なあ――――ん!」
そうして、今年も肉まんのスチーマーが売り場から撤去されました。
※みなさんも食べ収めはお早めに!
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