第73話 10万PV記念『もしもトシオが新人だったら?』
【ケース1.エルフと初バイト】
ぼくは山崎トシオ。
今日からこのコンビニでバイトをすることになった。
事務所で制服を羽織っていると、店長が言った。
「まあ最初はびっくりすると思うけど、頑張れよ」
「は、はあ」
どういう意味だろう。
やがて店のほうに出ると、店長がひとりのバイトを呼んだ。
「じゃあ、今日からおまえの教育係はこいつな」
「は、はい」
ぼくはその小柄な女性に挨拶をした。
「今日からお世話になります。山崎です」
その顔を見て、ハッとした。
色白で、端正な顔立ち。
飴細工のような金髪に、その象徴たる三角形の耳。
エルフだ。
初めて見た。
「こいつエルフちゃんな。仲よくしろよ」
「は、はい」
店長はさっさと裏に引っ込んでいった。
取り残されたぼくたちは、無言でお互いを見つめる。
いや、睨まれている。
ぼく、なにかしたっけ?
「あの、なにか?」
「…………」
するとエルフちゃんが、がばっと頭を下げた。
「よ、よろしくお願いしまひゅ!」
噛んだ。
【ケース2.エルフとポイントカード】
「ちょっと、ポイントカード通してないんだけど!」
「す、すみません!」
やってしまった。
あれほどポイントカードの確認は念を押されていたのに。
「えっと、すぐに……」
あれ。この処理、どうすればいいんだっけ。
と、そこでエルフ先輩がやってきた。
「どうしたん?」
「あ、エルフ先輩。ポイントカードを通し忘れちゃって……」
するとエルフ先輩は、なんでもないようにポイントカードを受け取った。
「そういうときはお会計を済ませて、また新しくお会計をすればいいんよ」
「な、なるほど!」
さすがエルフ先輩だ。
やっぱり頼りになるなあ。
エルフ先輩の華麗な処理に、おばさんはなにも言わずに帰っていった。
「ご迷惑をかけてしまって、すみません」
しかしエルフ先輩は優しく微笑んだ。
「誰でも最初は失敗するんよ。次は間違えんようにね」
「はい!」
おや。
レジの上に、ポイントカードがあった。
……これ、あのおばさんのじゃ?
「エルフ先輩。これ、返し忘れたんじゃ……」
「……さーて。うち、バックルームの整理に行ってくるん」
そう言って、彼女はさっさと引っ込んでしまった。
エルフせんぱぁーい!?
【ケース3.エルフと激辛肉まん】
「エルフ先輩。ハバネロ肉まんなくなりました。新しいのつくりますか?」
「うん。二個つくっといて!」
「え。二個もですか?」
これ、あんまり売れないから、こんな時間からつくって大丈夫なのかな。
「大丈夫なん。うちの勘がそう言っとるんよ!」
な、なるほど!
さすがはエルフ先輩!
ぼくはハバネロ肉まんをスチーマーに入れた。
それから二時間後。
ぼくらのシフトが終わる時間になった。
「じゃあ、そろそろ上がるん」
「はい。あ、そっちのお客さんのレジをしてから上がりますね」
そのお客さんが、肉まんのスチーマーを見た。
「えーっと、あとハバネロ肉まんふたつ」
「は、はい。ありがとうございます!」
ぼくはそれを包んだ。
と、先に着替え終わったエルフ先輩がレジにやってくる。
「……あれ。ハバネロ肉まんは?」
「エルフ先輩の言った通り、ハバネロ肉まん売れましたよ! さすがですね!」
「……え。あ、う、うん」
いやあ、ぼくもはやくエルフ先輩みたいな立派なアルバイトになりたいな!
「あれ。どうして泣いてるんですか?」
「な、泣いてないもん!」
うーん。
エルフ先輩ってわかんないひとだなあ。
…………
……
…
「……っていう夢を見たんよ」
「う、うん。感想は?」
「先輩って、大変なんね……」
「そうだねえ」
そう思うなら、このばらまいちゃったポテトの片づけ手伝ってくれないかなあ。
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