第70話(おまけ) エルフとチョコ


「でもおー、エルフさんってすごいですよねえー」


 ぼんやりとサキュバスちゃんが言った。


「どうして?」


「だってえー。あんなにポンとチョコ渡しちゃうんですもん。わたしだったら無理ですねえー」


「そうだな。今回の件で、わたしもエルフを見直したぞ」


 姫騎士ちゃんもうんうんとうなずいている。

 しかしサキュバスちゃん、アイドルなのにこういうとこやけに初心だよね。


 ……でも、このチョコか。


「それえー。本命ですかねえー?」


「どうなのだ。トシオどの?」


 女子ふたりから、にやにやと詰め寄られる。


「か、からかわないでよ」


 ぼくは慌てて、そのチョコを鞄に仕舞った。

 まったく、ひとの厚意で遊ぶのは感心しないな。


「…………」


 いや、気になってなんかないよ?



 …………

 ……

 …



 くしゅん。

 エルフちゃんはくしゃみをした。

 携帯の電話口から、里のお姉ちゃんの声がする。


『風邪?』


「ち、違うん。なんか寒気がしたんよ」


『まあ、気をつけなよ。ところで、チョコは渡せた?』


「うん。トシオも喜んでたん」


『そっかー。よかったねえ』


「でも変やったんよ」


『なにが?』


「姫騎士さんがオークさんにチョコ渡すの、すごい恐がっとったん。オークさんも大学のひとたちにたくさんチョコもらっとったし、あれなんなん?」


『そりゃ、あんた。バレンタインは好きな男の子にチョコ渡すんだから当然でしょ』


「え……」


 エルフちゃんが固まった。


『……あんた、もしかして知らなかったの?』


「あ、あばばばば……」


『ちょ、落ち着け』


「う、ううう、うち、渡してもうたん!?」


『べつにいいじゃん』


「う、うぎゃあああああああああああ」


 エルフちゃんはベッドに逃げ込んでしまった。

 携帯から、小さなため息が聞こえる。


『……青春だねえ』

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