第67話 姫騎士とサキュバス③


 そして13日。

 バレンタイン前日。


 ぼくらはサキュバスちゃんのマンションを訪れた。


 ……というか、なんでぼくまで?


「いらっしゃいませえー」


 サキュバスちゃんが迎えてくれた。

 休止中とはいっても、さすがはトップアイドル。

 正直、一家で住めそうな部屋の広さだ。


 整理も行き届いているし、小物もお洒落だ。

 やっぱりサキュバスちゃんって、女子力高そうだよなあ。


「ていうか姫騎士さん、ちゃんと買ってきましたかあー」


「も、もちろんだ」


 どさっとスーパーの袋を置く。

 ここに来る前、チョコを作るための材料を買ってきたのだ。


 サキュバスちゃんは中身を確認していった。

 そして眉を寄せる。


「……ていうかあ、本命チョコつくるのに、材料が一個八十円の板チョコってどうなんですかあー?」


「しょ、しょうがないだろう! それ以外は、もう渡すだけのものしかなかったのだ」


「まあ、いいです。それじゃあ、ちゃっちゃとつくっちゃいましょうかあー」


 そう言って、キッチンのほうでエプロンを着た。


「いいですか。わたしがプロデュースする以上、ぜったいに成功してもらいますからね!」


「と、当然だ! わたしも明日は、決死の覚悟でオークにチョコを渡して見せる!」


 盛り上がってるなあ。

 いよいよ居心地が悪くなって、ぼくはソファに座っていた。


 ……大丈夫そうだし、帰ろうかなあ。


 と、そこでぼくは本棚を見た。

 へえ。意外にサキュバスちゃんって、少女漫画とか読むんだな。

 あ、これとか、この前、映画化されて流行ったやつ……。


「きゃああああああああああああああああ」


 どきっとしてキッチンを見た。

 すると姫騎士ちゃんたちが大声でなにか言い合っている。


「どどど、どうしたのだ! なぜ、チョコが溶けない!」


「そ、そそ、そんなのわたしに聞かれてもわかりませんよおー! え、なんで焦げついてるんですかあー。さては姫騎士さん、なにか変な魔法でもかけましたね!」


「そんなことできるはずがなかろう! おまえこそ、なにかよからぬことを企んでいるのではないか!」


 なんか大変なことになってるな。


 ぼくはふたりのうしろから鍋を覗いた。

 そして、絶句した。


「……なんでチョコを入れた鍋を火にかけてるの?」


 するとふたりが、こちらを見た。


「え。だって、溶かさないと型に流せないじゃないですかあー」


「そうだぞ、トシオどの。溶かすためには火がいちばんではないか」


 ……最近の女子高校生たちの間で流行っているジョークかな。


「……ふたりとも、湯煎って知ってる?」


「「は?」」


 そのふたりの目を見て、ぼくは悟った。


 あ。このふたり、本気だ。


 その間にも、どんどん鍋は焦げついてすごい匂いが充満していく。

 ぼくは慌てて火を止めると、別の鍋に水をためて火にかけた。


「えっとね、まずは……」


 そこでやっと、ぼくはどうしてここに呼ばれたのかわかった。


 ……ラッピング作業だけのチョコって、手作りって言うのかなあ。


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