第63話 エルフと割り箸おつけしますか


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」


 おや。

 ぼくが商品の整理から戻ってくると、エルフちゃんが電話に向かって必死に謝っていた。


「はい、はい。……失礼します」


「どうしたの?」


「あ、トシオ」


 どうやらクレームの電話だったらしい。

 エルフちゃんがしょんぼりしながら言った。


「……お弁当に、お箸つけ忘れたん」


「あー。それはねえ」


 割り箸はコンビニでお弁当などを買うと、ほとんど必ずついてくるものだ。

 というか、それがなくては食べられない。 

 お客さんが怒るのも無理はない。


「どうしたいって?」


「一応、今日はもういいって言ってたん」


「じゃあ、今度からはお客さんに一声かけようね」


「……うん」


 それからエルフちゃんの様子を見ていた。


「わ、割り箸はおつけしますか」


 うん、今度はちゃんと聞けているね。

 ぼくが商品の整理に戻っていると、ふとエルフちゃんの声が頭の中に響いた。


『と、トシオ! これはどうするん!?』


 だから、あの魔法をそうほいほい使ってはいけないとあれほど……。


 まあ、しょうがない。

 どれどれ……。


 エルフちゃんの前には、ポテトチップスとジュースとプリンが置かれていた。

 そしてお客さんは言うのだ。


「割り箸つけてよ」


 うーん。

 確かに菓子類を割り箸で食べるってひともいるよなあ。


『ど、どうすればいいん!?』


『……えーっと。まあ、セーフで』


『わ、わかった!』


 そうして、エルフちゃんは割り箸をつけた。

 しかし、問題は次だった。


『わ、割り箸、ですか……?』


 あー。エルフちゃん、また魔法を切り忘れて……。


 その光景を見て、ぼくは閉口した。


 なぜか漫画雑誌だけを買ったお客さんが、エルフちゃんに言ったのだ。


「割り箸、十本くれ」


「か、かしこまりま……」


『待った、待った、待った!』


 ぼくは慌ててレジに向かって止めた。


「申し訳ございません。こちら、お弁当などを買っていただいたお客さまにおつけするものですので……」


「えー。ケチくせえなあ」


 け、ケチかあ……。


 そのお客さんが去ったあと、エルフちゃんに言った。


「エルフちゃん。割り箸は食べ物を買ったお客さんにつけてね。一応、割り箸とかも経費で買ってるものだからさ」


「わ、わかったん……」


 と、そこにひとりの女のお客さんが入店してきた。


「すみません、割り箸もらえませんか?」


 あれ。もしかしてエルフちゃん、またつけ忘れちゃったのかな。


「あ、すみません。ついてませんでしたか」


 慌てて割り箸を渡すと、彼女はにこりと微笑んで出て行った。


「エルフちゃん。つけ忘れちゃったの?」


「あれ。トシオじゃなかったん?」


「え?」


「え?」


 ぼくらはしばらく、お客さんが去っていった方向を見つめていた。


 ……まさか、家から割り箸もらいにきたとかじゃないよね?

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