第60話 エルフと携帯②


 エルフちゃんは無事、学校の友だちと携帯番号を交換してきたようです。


「うへへ、うへへへ……」


 エルフちゃんは大層、ご機嫌だ。

 シフト中なのに、ずっと携帯ばかり気にしている。


 パック飲料の補充をしているときも、ずっとそわそわしていた。

 そのせいで、どうも手元が危なっかしい。


「え、エルフちゃん。気をつけないと……」


「え? ……あ!」


 エルフちゃんが冷蔵棚を引き出した瞬間、それに引っかかった下の牛乳パックが落っこちた。


「ご、ごめん!」


 と、エルフちゃんが慌てたのが悪かった。

 ぐしゃっと踏んづけてしまい、中身がどばっと床に広がる。


 で、もちろんエルフちゃんがそこで終わるわけもなく……。


「う、う、うち、雑巾持ってく……」


「あ、待った!」


「んぎゃあ!」


 バッシャン!

 牛乳パックが滑って、見事に尻もちをついてしまった。


「エルフちゃん、大丈夫!?」


「う、うぅー……。あ、あんま見らんで……」


「あ、ごめん!」


 エルフちゃんのお尻は見事に濡れてしまっていた。

 ぐしょぐしょになったスカートを押さえながら、慌てて事務所に戻っていく。

 牛乳がぽたぽたと落ちたところを、ぼくは慌てて雑巾で拭いて回った。


 それが終わって事務所に戻ると、エルフちゃんが椅子の上でしょぼくれていた。

 牛乳臭いスカートが干されているけど、明日の学校までに臭いは取れるのかな。


「き、気持ち悪いん……」


「あれ。でもスカートは脱いでるんでしょ?」


「し、下も濡れたんよ!」


「ご、ごめん」


 そ、そうか。まあ、そうだよな。

 腰の部分はバスタオルで隠しているけど、太ももから下はそうはいかない。


 ……なんだろう。

 いつもスカートで脚なんて見慣れているはずなのに、すごく心臓に悪いぞ。


「……トシオ。なんか目がいつもと違うん」


「い、いつもと同じだよ」


 ぼくは慌てて目をそらした。


「でも、これでわかったでしょ。携帯はロッカーに入れとかなきゃダメだよ?」


「で、でも、なにか連絡があるかもしれんし……」


「そのときはそのとき。ね?」


「う、うん。わかったん……」


 それから数日、ずっとエルフちゃんは携帯に気を取られていた。

 こんなんじゃ、クレームばかりでエルフちゃんがクビになってしまう。


 どうしたものか……。



 でも一週間後、エルフちゃんはなぜか休憩中も携帯を見なくなっていた。


「エルフちゃん。携帯はどうしたの?」


「家に置いてるん」


「え。どうして!?」


 あんなに嬉しそうにしていたじゃないか!


 すると彼女は、フッと遠い目で言った。


「……あの携帯、バイトの電話しか来んって気づいたん」


 あー。


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