第61話 オークと初夢


「そういえば、オークくんって初夢見た?」


 レジで手持無沙汰なとき、ふとそんな話題を持ち出した。


「あー。そういえば、こっちはそんな風習があったっすね」


「向こうにはないんだ?」


「うっす。年越しに対しては、種族によっても考え方に差があるっす」


「じゃあ、オーク族はどんな感じなの?」


「そっすね。オークは結局、酒が飲めるイベントのひとつって感じっすね。正直なところ、あまり信心深い種族じゃないんで。おれも年越しは実家のほうで飲んでたっす。そんで、気がついたら越してたっすね」


「あー。まあ、こっちもそういう感じのひとはいるよね」


 と、そこにエルフちゃんがやってきた。


「なんの話をしてるんですか?」


「あ、初夢のことを話しててね」


「初夢?」


「知らない? 元旦にいい夢を見ると、その一年はいい年になるって話」


「いい夢を見たら、いい一年になる?」


 エルフちゃんはパッと顔を輝かせた。


「じゃあ、うちはいい一年になるんね!」


「そうなの?」


「うん。だってうち、元旦はトシオとバイトしてる夢見たん」


「え……」


 思わず目をそらした。


 いかん、いかん。

 すごく顔が熱くなってるような気がする。


「え、えっと、それはいい夢なのかな?」


「トシオは違うん? うちの夢見たら嫌なん?」


「あ、えっと……」


 も、もちろん嫌なんかじゃないけど。

 助けを求めてオークくんに目を向けるけど、彼は聞かないふりをしてそっぽを向いている。


 やめて、そんな対応されると逆にすごく恥ずかしいから!


「あ、いや、なんていうかね。いい夢っていうのは、縁起がいいものを見たかっていう意味でね」


「そうなん?」


「うん。特に日本では『一富士二鷹三茄子』って言って、それが夢に出ると縁起がいいんだ」


 エルフちゃんがしょんぼりしてしまった。


「……じゃあ、うちは悪い一年なんね」


「そ、そういうわけじゃなくてね! 心の持ちようっていうか。え、えっと、オークくんは?」


 慌てて話題を逸らそうとすると、なぜか彼も微妙な顔でうなだれている。


「……ど、どうしたの?」


「いえ。おれ、確かに元旦は『一富士二鷹三茄子』の夢を見たっす」


「え、それはよかったじゃない!」


 実際にそんな夢を見るひとって、なかなかいないよね。

 でもオークくんの顔色は冴えない。


「見たんすけど……」


「なにかあったの?」


 するとオークくんは小さなため息をついた。


「……『一富士二鷹三茄子』のミニチュアを抱えた姫騎士さんが、ひたすら高笑いしているだけの夢だったっす」


「…………」


 ……そういえば年末、よく一緒のシフトに入ってたもんね。


 オークくんの一年に幸あれと願ってやまないぼくだった。

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