第59話 エルフと携帯①


「ど、どうしたの?」


 ずいぶんエルフちゃんがご機嫌だった。


「ふふふ。うち、なんか変わったところない?」


 そう言って、ちらりと目配せする。


 変わったところ?

 うーん。見た感じ、いつもと同じような気がするけど。


「あ、あのエルフ族直送のシャンプー変えた?」


「違うんよ! ていうか、なんで知ってるん!?」


「いや、ほら。朝とかさ、エルフちゃんが寝ぼけてあの魔法を使っちゃうから……」


 あの魔法っていうのは、視覚を交換しちゃうあの魔法ね。

 困ったことに、実はまだ解けていないんだ。


「あー、あー! それはもういいんよ!」


 エルフちゃんが慌ててぼくの言葉をふさいだ。

 ごそごそとポケットを探ると、あるものを取り出した。


「じゃじゃーん」


 どやーん。


「そ、それは……!」


 ぼくはそのピンクの物体を凝視した。


「あ、携帯買ったんだね」


「そうなんよ! やっとお父ちゃんがいいって言ったん!」


 そういえばエルフちゃん家、固定電話しかないから不便だって言ってたなあ。


「こ、これでうちにも友だちが……。うへ、うへへへ」


 完全に有頂天でいらっしゃる。

 どうやら、携帯を持てば友だちができると勘違いしているらしい。


「でもエルフちゃん。それは携帯番号を聞かなきゃダメなんだよ」


「え……」


 エルフちゃんの顔が凍りついた。


「ど、どうして?」


「いや、知らないひとから勝手に電話が来たら困るでしょ?」


「あ、そうやね……」


 それから、青い顔でそわそわしだした。


「ど、どうしよう! これじゃ、うち友だちできん!」


「え。これから増やせばいいじゃん」


 エルフちゃん、可愛いんだし難しいことじゃないと思うけど。


「む、無理なん! もし失敗したら恥ずかしいん!」


「あー……」


 確かにひとに番号を聞くのって、けっこう度胸がいるよね。

 うまく登録できなくて困ったりとか、ぼくも経験あるなあ。


「じゃあ、ぼくの番号を登録して練習してみる?」


「う、うん! する!」


 そう言って、エルフちゃんと番号を交換した。

 いや、決してこんな口実で番号を知れてラッキーなんて思ってないよ。

 純粋に彼女のことを思っての行為だ。


「じゃあ、こんな感じでね」


「うち頑張るん!」


 エルフちゃんはぼくの番号だけが登録された電話帳を、にやにやと嬉しそうにいつまでも見ていた。


 なんだかこそばゆいなあって、そのときのぼくは思っていたんだ。

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