第57話 姫騎士とPOP


 POP。

 主に紙に商品名や価格、あるいはセールスポイントなどを明記する販促物だ。


 それは商品を売るために必要不可欠なものであり、同時に最も効果的な販売促進アイテム。

 本屋さんとかでも、よく手書きのPOPなんかを用意してオススメ商品を展開している店もあるよね。


 コンビニの売り物っていうのは、商品自体に価格が明記されているものと、そうでないものがある。

 新商品が導入されると本部からPOPの束が送られてくるんだけど、それはなんとも味気ないものだ。


 なので、うちの店舗でもお買い得商品などに、手書きのPOPをつけることにしている。

 やっぱり可愛らしい感じのものが受けるので、そこは女性に任せたいんだけど……。


「フッ。今月も、このときがきてしまったようだな」


「そっすね」


「よくぞ逃げずに来たと誉めてやろう。オークよ!」


「いえ。自分、シフトなんで」


 姫騎士ちゃんとオークくんの間に、熱い火花が弾けるような気がした。

 いや、よそから見ている限り、限りなく一方通行なんだけど。


「それでトシオどの。今回の商品はなんだ!?」


「えーっとね。はい、これです」


 ぼくは本部から送られてきたデータをふたりに見せた。


『いちごの贅沢プリンアラモード。価格:358円(税込み)』


 パウンドケーキにプリンをのせ、いちごと生クリームで贅沢に飾った一品だ。

 寒くなると、やっぱりいちご系のスイーツが増えるよね。


 姫騎士ちゃんは画像を見ながら、ふむふむとうなずいた。


「……ほほう。なかなかおいしそうなものではないか。わたしたちの闘いにふさわしいものだ」


「発売と合わせてポイントカード提示で50円引きセールに入るから、そこもちゃんと書いてね」


「任せろ!」


 それでは、よーい、どん。


 ぼくの合図とともに、姫騎士ちゃんはサインペンを手に取った。

 すごい勢いでPOP用の紙を塗りたくっていく。


 対して、オークくんはじーっと画像を見つめていた。

 その様子に、姫騎士ちゃんはすでに勝利を確信したようだった。


「フハハ! オークよ。まさか怖気づいたのではあるまいな!」


「…………」


 その挑発にも、オークくんは動かない。


 だ、大丈夫かな。

 なんだか、ぼくのほうまで緊張してきたぞ。


 そうして、姫騎士ちゃんが出来上がった。


「見ろ! トシオどの、これまでで最高のものができたぞ!」


「どれどれ……」


 受け取って、ぼくは戦慄した。


『まあ、見た目はきれいだな! あと、いちごが素晴らしい! とても瑞々しい感じがするぞ! クリームもふわふわだ! たぶん美味しいこと間違いなしだ! 安くなるから、絶対に買うといい!』


 完全に見たままを書いている。

 これはそう、あれだ。


 小学生の感想文だ!


「どうだ!」


「……姫騎士ちゃん。これは、ちょっと置けないかな」


「な、なぜだ!?」


 いや、わからないでか。

 あと、赤とか青とか、全体的に配色が濃いから、見た目がすごく毒々しいんだよなあ。


 と、いつの間に書きあがったのか、オークくんが差し出した。


『今日の自分へのご褒美はこれ! 甘いプリンと酸っぱいいちごの風味で癒されよう。ポイントカード会員限定、50円引きセール実施中!』


 姫騎士ちゃんが、フッと笑った。


「やはりオークだな。そんな軟弱なPOPでお客さんの気を引こうなどとは片腹いた……」


「オークくん、採用で」


「なぜだあ!?」


 いや、わからないでか。


 そうして今月もまた、オークくんの書いた可愛いPOPが店中に並べられることになるのだった。

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