第54話 エルフと販促活動①


 炎上、というネット用語を知っているかな。

 ネット上とかで、うっかり不祥事が発覚してえらい騒ぎになることだよ。


 コンビニも決して他人事ではないね。

 数年前だったかな。

 コンビニ店員がアイスのボックスに入って遊んでいるのがSNSに投稿されて、すごいことになったのは記憶に新しいと思う。

 いまでは写真が簡単にネットにアップできるから、ちょっとの気の緩みが大損失を招くことになるんだ。


 で、どうしてそんなことを言いだしたのかって?


 たったいま、このコンビニが炎上の的になっているからだよー。



 ことの発端は数時間前のお昼過ぎ。

 その日のエルフちゃんは、どこか体調が悪そうだった。


「……大丈夫? すごく顔が青いけど」


「だ、大丈夫なん……」


「具合が悪いなら、裏で休んでたら?」


「そ、そういうわけじゃなくて……」


 ――きゅるるるる。


 あー……。

 エルフちゃんが顔を赤くしてお腹を押さえている。


「ご飯、食べてこなかったんだね」


「だ、だって急に委員会の集まりがあるって言われて、急いで来たんやもん」


「そ、そうか。でもなあ……」


 できればなにか食べさせてあげたいけど、はやく発注を終わらせないと時間に間に合わないんだよね。


「あと三十分だけ我慢してくれないかな。そしたら、休憩に入ってもいいから」


「う、うん……」


 そして三十分後。

 ぼくは事務所で発注を終えると、レジのほうに出た。


「……エルフちゃん?」


 ハッと彼女が固まってしまった。

 その手にはハバネロ肉まんがほかほかと湯気を立てている。


「ち、違うん! これは、そう、肉まんがうちのこと呼んでる気がして……!」


「…………」


 じーっと見つめていると、エルフちゃんがしょんぼりとしてしまった。


「……ごめん」


「うん。そうだね」


 いくらお金を払っていても、レジの中で商品を食べちゃいけない。

 お客さんが見たら不快なことだからね。


「反省してくれたならいいんだよ。じゃあ、発注も終わったから裏で食べてきていいよ」


「い、いいの?」


 まあ、せっかく頑張ってくれたんだから大目に見てもいいよね。


「トシオ! ありがとう!」


 エルフちゃんはわくわくしながら、事務所に入っていってしまった。

 はー。大事にならずに済んでよかったよ。


 でも、状況はすでに動き出していたなんて、そのときのぼくはこれっぽっちも考えちゃいなかったんだ。


 ≪つづく≫

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