第52話 エルフとサボりたい日
やっほー。トシオだよ。
今日はオフだから駅前の商店街に来ているよ。
平日の夕方ということで、なかなか混雑しているね。
ええっと、切れていたシャンプーとかは買ったから、あとは食品だけなんだけど。
「あれ?」
向こうから見知った顔が歩いているのを見つけた。
制服姿のエルフちゃんだ。
どうやら学校帰りらしいね。
「エルフちゃん」
「あ、トシオ!」
彼女はひょこひょこと三角の耳を揺らしながらやってきた。
うーん。
毎度のことながら、エルフちゃんのこの耳はどういう原理で動いているんだろうねえ。
「トシオ! これからシフトですか!」
「え。いや、今日は休みだけど」
「じゃ、じゃあ、ちょっとお話しましょうよ!」
「う、うん。いいけど」
なんだ。
今日はやけにぐいぐい来るな。
近くの喫茶店に入ると、エルフちゃんは席に着くなり言った。
「あー、バイトだるいわー」
ずがーん。
い、いまなんて?
あのエルフちゃんが?
どんなにクレームをもらっても、決して仕事をやめたいとか休みたいとか言ったことがないエルフちゃんが!
バイトだるいだって!?
「エルフちゃん。いま、なんて?」
聞き間違いであってくれ。
しかし彼女はにこにこしながら、はっきりと言った。
「だから仕事だるいって言ってんのー。マジやってらんないわー」
「…………」
な、なんて嬉しそうな顔で言うんだ……。
しかし、これはいよいよ妙だね。
「……エルフちゃん。どうしたの?」
「え……」
すると彼女の顔が素に戻った。
「だ、だってこの前、里のお姉ちゃんが言ってたん。バイトだるいわーって言ってればとりあえず会話がつながるって!」
「そ、それは……」
ち、違わないんだけど、なんか違うよ!
あと、もしかしてエルフちゃん。
その言葉の意味、わかってない?
「学校でも、よく男子とかが言ってるん。そしたら他の子が『わかるー』とか言って笑うんよ。これでうちも学校で友だちが……」
「待って。エルフちゃん、待って!」
それだけはどうにか阻止しなければ!
「エルフちゃん。あのね、その言葉は実は、人間界の呪文なんだ」
「え。そうなん?」
「そうだよ。だから、普通は使ったら大変なことになるんだ」
「ど、どんな……?」
ぼくはその目をまっすぐ見つめながら言った。
「バイトに行きたくなくなるんだ」
「え……」
エルフちゃんの顔が凍りついた。
「う、うち言ってしまったん!」
「大丈夫だ。一回まではセーフなんだ。だからもう言っちゃいけないよ」
「わ、わかった。うち、もう言わんから!」
「うん。そうだね。あ、ところでシフト大丈夫?」
エルフちゃんはハッとして立ち上がった。
「あ、行かなきゃ!」
「うん。行ってらっしゃい」
そうしてエルフちゃんを見送ったあと、ぼくはため息をついた。
まあ、それが当たり前と言えば当たり前なんだけど。
エルフちゃんが嫌そうに仕事するところなんて、ぼくも見たくないしね。
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