第49話 エルフと後輩③
いつもより人数が多いはずなのに、いつもよりずっと疲れるのはなぜだろう。
「と、トシオ! このケーキ、賞味期限切れですよ!」
「ねえ、センパァーイ。わたし疲れちゃいましたあー。いっしょに休憩しましょうよおー」
「ふたりとも、ちょっと待って……」
プルルルル。
電話が鳴った。
ぼくは慌てて受話器を取って事務所に入った。
相手は店長だった。
「……えぇ!? 向こうの店舗のスタッフが倒れたあ?」
フランチャイズのコンビニではよくあることなんだけど。
店舗運営の契約を結ぶときは、だいたい二店舗ないしそれ以上を契約するんだ。
基本は『売り上げが期待できる店舗』と『期待できない店舗』だね。
そうすることで収益のバランスをとっているんだけど、うちのオーナーもその例に漏れずに二店舗を経営している。
ちなみにうちの店舗は後者だよ。
立地的に、やはり駅前の店舗には勝てないね。
「それでヘルプを……。えぇ、はい。でもエルフちゃんはそっち入ったことないですよね。え、ぼくですか? でも……」
もちろんオーナーはいっしょでも別店舗だから、スタッフの面子は違うんだ。
でも、どうしても人がいないシフトとかでは、ヘルプで互いのスタッフが行き来している。
ぼくも月に何度かは、向こうの店舗に入っていたりするんだよね。
「わ、わかりました。それじゃあ、すぐに行きます」
ぼくは受話器を置いた。
そして店のほうに出ると、エルフちゃんが涙目で飛びついてきた。
「と、トシオ!」
「なに?」
「こ、このサキュバスが、うちのこと馬鹿にするん!」
「え?」
ちらと見ると、サキュバスちゃんが唇を尖らせている。
「だってえー。田舎もんのくせに、偉そうに説教してくるんだもん」
「う、うちのほうが先輩なんよ!」
「そもそも、エルフってあんまり好きじゃないんですよねえー。いつも気取ってて、なんか他種族のこと見下してるっていうかあー」
「そ、それはサキュバスがいつもエルフのこと……」
「ストップ、ストお――――ップ」
ぼくは慌てて手を叩いて喧嘩を止めた。
「あのね。種族として仲が悪いのはしょうがないけど、ふたりは同じコンビニのスタッフなんだ。だから、同じシフトの間は協力しなきゃいけないよ」
「…………」
「…………」
ふたりはツーンとそっぽを向いている。
「じゃあ、ぼくはちょっと向こうの店舗にヘルプに入らなきゃいけないから。しばらく、ふたりだけでお願いするよ」
「え!?」
「ど、どういうことですかあー!」
「しょうがないんだ。大丈夫、エルフちゃんも研修期間は終わってるし、この時間帯は仕事も少ないから」
「で、でも……」
「二時間もすれば、向こうの次のシフトのひとが来るから。じゃあ、お願いね」
ぼくは慌てて店を出ると、スクーターを飛ばした。
……でも、本当に大丈夫かなあ。
≪つづく≫
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