第47話 エルフと後輩①


「わー。エルフちゃんおめでとー」


 エルフちゃんが、えっへん。と胸を張る。

 彼女がバイトに入って、はや三か月。

 とうとう、名札の『研修中』がとれたのだ。


「これで、うちも立派なコンビニアルバイトなん!」


「そうだねえ」


 すると、店長が言った。


「あ、トシオ。明日から新しいバイトはいるから」


「え。本当ですか」


「うん。ちなみに亜人ね」


「へえ。じゃあ、エルフちゃん。先輩としていろいろ教えてあげなきゃね」


「任せて!」


 どーんと大船に乗ったつもりで!

 みたいなどや顔だった。


 ――そのエルフちゃんの笑顔が曇ってしまうなんて、このときのぼくは思ってもいなかったんだ。



 そして二日後。


「どうもー。新しいバイトでーす」


 可愛らしい八重歯の、ギャルっぽい女の子だった。

 背中の小さなコウモリみたいな羽がパタパタ動いている。


 あれ。

 この娘、どこかで見たことがあるような……。


「……もしかして、あのサキュバスアイドル・ユニットの?」


「あ、はーい。知ってくれてるなんて感激ですー」


「新しいバイトって、どうして? アイドル活動は?」


 詳しくはないけど、アイドルってバイトしちゃいけないんじゃなかったっけ?


 するとサキュバスちゃんは、困ったような笑顔で言った。


「アハハー。ちょっと、うちら活動休止になっちゃいましてー」


「え。そうなの!?」


「実はうちのキャプテンが、うっかり子どもできちゃいましてねえー。こっちの避妊具ってレベル高いからって油断してましたー」


 うわーい。

 いまさらっと爆弾発言きたぞー。


 サキュバスとしては当然という感じはするけど、やっぱりアイドルとしては致命的なことだよね。


「ま、それで、ほとぼり冷めるまで引っ込んでることになったんですけど。仕事してないと滞在ビザ下りないんで、とりあえずバイトでもと思いましてー」


「へ、へえ」


「というわけで、不肖、このサキュバス。本日より誠心誠意をもって働かせていただきますのでどうぞよろしくー」


 ビシッとポーズを決めるあたり、やっぱりアイドルだなあ。


 あれ。

 でも、そういえばこの子たちって……。


「あ、エルフちゃん……」


 じろり。


 うしろから禍々しい気配を感じると思ったら、エルフちゃんが事務所のドアの間からすごい顔で睨みつけていた。


 そういえば、年末に田舎ものって言われてキレてたなあ。

 と、彼女の手にサラマンダーが舞い降りる。


「いまこそ、あのときの恨みを晴らすん……」


「わー! 待った、待った! エルフちゃん、落ち着いて!」


 あのときスプリンクラーが誤作動してえらいことになったんだよなあ。


 サキュバスちゃんも慌てて言った。


「そ、そんな恐い顔しないでくださいよー! あれ、台本なんで! うちらだって、同じ亜人にあんなひどいこと言いたくないんですって!」


「ほら、エルフちゃん。そういうわけだから、ここは押さえて。先輩でしょ?」


 先輩、という言葉にエルフちゃんが反応した。


「そ、そうなんね! うち先輩なん!」


「そうだよ。だから、これからサキュバスちゃんに仕事を教えてあげなくちゃ」


「うん。うち頑張るん!」


 ハア。大事にならなくてよかった。


 しかし、このときサキュバスちゃんがにやりと笑っているのに、ぼくは気づいていなかったんだ。


≪つづく≫

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