第46話 エルフと雪の日②


「きゃあ!」


 入口でお客さんの悲鳴が上がった。

 ぼくは慌てて声をかける。


「だ、大丈夫ですか!」


「は、はい……」


 雪のせいで、床が滑りやすくなっているのだ。

 一応、吸水マットを敷いているけど、とっくに容量オーバーだった。


 しかし雨の日と違って、雪の日は床が濡れているだけじゃ済まない。

 雪と混ざった泥が靴の底について、それが床に広がる。

 入口はすでに足跡とかでどろどろに黒くなっていた。


「エルフちゃん。ちょっと拭いてきてくれない?」


「う、うん!」


 エルフちゃんが慌ててモップで拭きに行った。


 キュッキュッキュ。


「できた!」


「ありがとう」


 これで一安心かと思いきゃ……。


「うわ!」


「エルフちゃん。お願い!」


「わ、わかった……!」


 キュッキュッキュ。


 でも、もうモップのほうも限界だった。

 いつも降っている場所のコンビニとかだといろいろ対策があるらしいけど、年に何度かしか降らないような店舗にはこれくらいしか手立てがないのだ。


 そのうち、帰宅ラッシュの時間になってきた。

 これまでとは比較にならないひとが入ってきて、入り口付近はとんでもないことになっていた。

 エルフちゃんがほとんどつきっきりで拭いてくれているけど、お客さんの対応もあるし手が追いつかない。


「エルフちゃん!」


「わ、わかってるって……」


 あ、そんな走ったら……。


「ぎゃん!」


 ツルンッ、ズベシャ!


 見事に転んでしまった。


「だ、大丈……」


 声を掛けようとして、慌てて目を逸らした。


 だからエルフちゃん、なんでスカート穿いてくるの!?


「え、エルフちゃん! はやく起きて!」


 よろよろと起き上がった。

 制服の前のほうが、すっかり黒くなってしまっていた。


「…………」


 気のせいだろうか。

 エルフちゃんの目が死んでる……。


 やがて彼女は、ぐずりながら叫んだ。


「雪の日、きらい!」


 やがて上がりの時間になり、ぼくらは店を出た。

 いやあ、今日もえらい目に遭ったなあ。


「エルフちゃん。大丈夫?」


 するとエルフちゃん、フッと遠くを見るような顔でつぶやいた。


「……うち、汚されたん。これが大人になるってことなんね」


 いいけどそれ、外で言っちゃダメだからね。


 そしてぼくらでつくった雪だるまは、翌日まで店の入口に残っていた。


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