第45話 エルフと雪の日①


 おー。

 ようやく止んだなあ。


 ぼくは店の外に出た。

 辺り一面、真っ白な銀世界だ。


 今朝、ぼくが出勤するときに吹雪いてきた天気が落ち着き、こうして一年ぶりに積もったのだ。

 と、ちょうどシフト交代のエルフちゃんがやってきた。


「と、トシオ!」


「やあ、おはよう」


 すると彼女は鼻先を真っ赤にしながら叫んだ。


「み、見てください! 雪ですよ、雪!」


「あー、そうだねえ」


「東京は雪が降ると聞きましたけど、まさかこんなに積もるなんて!」


 言いながら、車のない駐車場に駆け出した。

 あ、そんなに急に走ったら……。


 つるんっ!


 エルフちゃんが、すてんっと転んだ。

 そのまま、ズベシャッと顔からダイブしてしまう。


「だ、大丈夫!?」


 すると彼女は、むくっと起き上がった。


「トシオ! これは雪です!」


「……そうだねえ」


 どうやら無事らしい。


 エルフちゃんはとても興奮なさっている。

 そうは言っても、例年より少ないくらいなんだけど。


「エルフちゃんの故郷では雪は降らないの?」


「はい。二年か三年に一度、ぱらぱらと舞うくらいです」


 あぁ、なるほど。

 となれば、これくらい降るのは初めての経験ということか。


「トシオ。雪だるまをつくりましょう」


 エルフちゃんはすでにスタンバイオーケーだ。

 手のひらでころころと核になる雪玉をつくっている。


「いや、ぼくまだシフト……」


「え。お客さんいるんですか?」


 いなかった。

 しかも仕事もあらかた終えていた。


「さあ、やりましょう!」


 言いながら、彼女はころころと転がし始めた。


 もはやエルフちゃんは止まらない。

 いつもは素直な子なんだけど、こういうときは妙に押しが強いんだよなあ。


「うーん。いいのかなあ」


 ちらと店のほうを見ると、レジにいるオークくんが両腕を使って頭の上で〇をつくった。

 ……こっちの会話、聞こえてるの?


 まあ、たまにはいいか。

 どっちにしろ、出入り口近くの雪かきもしなくちゃいけないしね。


「ようし。じゃあ、ささっとつくっちゃおうか」


「はい!」


 こうして、ぼくらは雪だるま製作を始めた。

 でもエルフちゃん。

 雪の日のコンビニの大変さを知っているのかなあ。


 ≪つづく≫

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