第44話 エルフと未成年


「やから言っとるやん。うち成人しとるよ」


「いや、ですから……」


 新年早々、困ったお客さんがきていた。

 ほとほと困り果てていたところに、バックルームで作業を終えたエルフちゃんがやって来た。


「トシオ。どうしたんですか」


「あ、エルフちゃん。ちょっとね……」


 すると、目の前のお客さん――中学生くらいの女の子だ――は、エルフちゃんに顔を向けた。


「あ。ちょうどええわ。お嬢ちゃん、タバコの三十五番ちょうだい」


「あ、はい」


 そう言って、ほいほい渡そうとしたエルフちゃんの手を止める。


「待って。エルフちゃん、未成年にタバコ売っちゃダメ」


「え、どうしてですか」


「未成年でタバコを吸ったら、肺ガンとかになりやすいんだよ」


「でも、それは個人の責任でしょう」


「そう法律で決まってるの。もし警察にバレたら売ったほうも罰金とられるんだよ」


「え!?」


 途端、エルフちゃんが目をキリッとさせた。


「売れません!」


「だから、うち成人しとるってばあ」


 女の子は呆れたように言った。

 エルフちゃんが困り果ててこちらを見た。


「と、トシオ。こういうときはどうするんですか」


「年齢を確認できるものを提示してもらうんだよ。顔写真つきが好ましいから、免許証があればいいんだけど……」


 ちらと女の子を見た。

 彼女はぷーっと顔を膨らませる。


「だから家にある言うとるやん。もう、ほんと話がわからん小僧やなあ」


 さっきからこればかりだ。

 外見的に未成年と思しきひとには、免許証の提示がなければ売ってはいけない。

 とはいえ、この判断はスタッフ次第なので、その正確性は微妙なところだけど。


 しかし彼女はどう見ても中学生かそこら。

 あまりに反省のない対応に、さすがのぼくも我慢の限界だった。


「これ以上、文句を言うなら警察に連絡しますよ」


「あぁ、もう! わかったわ。こんな店、もう来んからな!」


 そう怒鳴って出ていこうとしたとき、ふと人影が入ってきた。


「うっす。どうしたんすか」


 外の掃除をしていたオークくんだ。


「いや、この女の子がタバコを売ってくれって聞かなくてさ」


「あ、そっすか。三十五番っすね」


 そう言って、オークくんはあっさりとレジを通してしまった。


「ちょ、ちょっとオークくん! この子、未成年だよ!」


 するとオークくんはなんとも言えない顔になった。


「……トシオさん。このひと、エルフっすよ」


「え!?」


 女の子がそっと髪をかき上げた。

 そこには確かに、三角形の耳があった。


「な、ならそう言えば……」


「どうせエルフや教えても未成年かもしれへん言うて売ってくれんやろ」


「あ……」


 た、確かにそれはそうだ。

 実際、外見のあまり変わらなさそうなエルフちゃんは未成年なのだから。


「まったく、いつもと違う時間帯に来ればこれやからなあ。オークくん。ちゃんと後輩の指導しといてや」


「すんませんっす」


 いや、ぼくのほうが先輩なんですけど……。


 その女の子が出て行ったあと、ぼくはため息をついた。


「異世界のひとって、こっちの常識が通じなくて難しいよ」


「すんませんっす」


「いや、オークくんのせいじゃないんだけど……」


 まあ、どっちかって言うと……。

 ちらと見ると、エルフちゃんがどきりとした。


「な、なんですか?」


「エルフちゃんもわからなかったの?」


「だ、だって! あんなんわかるはずないん!」


 ……うーん。

 ほんと、異世界って奥が深いなあ。

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