第43話 エルフと店内放送


『さあ今日も始まりましたー。店内放送の時間です。今日のお相手はわたしたち、サキュバスユニット【トリスト・イン・ドリーム】でーす』


『いえ~い!』


 また始まった。

 窓ガラスを拭くエルフちゃんの手が、ぴたりと止まった。

 一瞬ののち、それは再開する。


 ……顔はそ知らぬふりをしているけど、じっと耳を傾けているのがわかった。


 店内は年末の大掃除の真っ最中だった。

 ぼくはどきどきしながら、床を磨くバフマシンを動かしていく。

 この機械は店舗によってポリッシャーとかクリーンスターとか、いろんな名前があったりする。


 そして一時間おきに流れる店内放送。

 これは芸能人が交代制でMCをやるものだ。

 基本的にトーク番組だが、うちのコンビニの新商品や新しいサービスの案内もしてくれる。

 他には新しく発売される歌や、いま流行りのファッションなども紹介するね。


『いやあ、年末ですねえ。みんな、年越しの準備してる?』


『してなーい』


『こっちの世界の年越しって、向こうと違ってしんみりしてるよねえ』


『でも海外だと騒がしいところもあるらしいよ』


『あ、そういえば実家には帰る?』


『いや、そもそもわたしたち年末ライブあるから!』


 アハハハ、とよくわからない笑いが起こる。

 彼女たちは一年前、流星のごとく現れたサキュバスアイドル・ユニットだ。

 もともとサキュバスということもあり、その男性人気はすさまじい。

 もはや人間のアイドルグループで勝てるものはいないとさえ言われる。

 そんな彼女たちのMCは、もちろん男のぼくとしては歓迎するべきものなんだけど……。


『はい、じゃあ恒例のクイズの時間でーす』


『わたしたちの答えをクーポンで発行したら、なんとスイーツ十円引き!』


『さっそく行ってみましょう。じゃじゃん!』


 ……きた。


『――異世界人も増えてきたこの頃、いちばん野蛮な種族と言えば?』


 エルフちゃんの手が、完全に停止した。


『じゃあ、わたしたち答えちゃいましょう。答えちゃいましょうよ!』


『せーの!』



『――エルフ!』



 サキュバスたちの声が、完全にハモった。

 

『あ、やっぱり!?』


『だってあのひとたち、いっつも森に引きこもってて恐いもん』


『そうだよねえ。いまだにウサギとか狩ってるんでしょ?』


『なんか聞いた話だと、お風呂も一か月に一回しか入らないらしいよ?』


『マジで!?』


『こっちにエルフが少ないのって、臭くてゲート通れないからだって』


『なにそれウケる!』


 キャハハ、と大笑いしている。


 これはひどい。

 まあ、こういう好き勝手やってるのが彼女たちの売りだからなんとも言えないんだけど。

 たぶん出題したひとは、こう、もっと違う種族を答えると思ったんだろうね。

 まあ、印象っていうのは、立場によって違うものだ。


 ……ただ、ねえ。


「サラマンダー! あいつら燃やすん!」


「待って、エルフちゃん! それスピーカーに撃ち込んでも意味ないから!」


「放して! お父ちゃんも一週間に一度はちゃんとお風呂入ってるもん!」


「エルフちゃん。それあんまりフォローになってないよ!」


 こうやってぶちギレたエルフちゃんを取り押さえるほうの身になってほしいというか、なんというか。


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