第41話 エルフとクリスマス②
それから十分もしないうちに、エレベーターが動き出した。
ゴウンゴウンと上がってきて、この階で止まる。
チーン。
そしてエルフちゃんが出てきた。
彼女は部屋の前で小さくため息をつくと、鍵を開けようとバッグに手を差し込んだ。
「ホッホッホー。帰ってきたね。エルフの少女よ」
ぼくはエルフちゃんとは反対側の廊下に、バッと身体を踊りだした。
え、部屋の中に潜んでいたんじゃないのかって?
もともとはそのつもりだったんだけど、寸でのところで思いとどまった。
そんなこと、できるわけないじゃないか。
だって女の子の部屋に勝手に入るなんて犯罪だよ?
こうして、廊下の反対側に隠れることで手を打ったんだ。
あー、他の住人が帰ってこなくてよかった。
しかし、ぼくが身を包んだのはサンタクロースの衣装。
声も頑張ってしわがれた感じを演出してみた。
そしてこの距離だ。
きっと純粋な心を持つ彼女なら、ぼくをサンタクロースだと間違え……。
「……トシオ。なにしてるん?」
一瞬でバレたよ。
ぼくは完全に出鼻をくじかれて、慌てて取り繕うとした。
「な、なんのことかな? ぼくはサンタクロ……」
彼女はむっとした顔で歩いてきた。
「あ、ダメ。こっち来ないで!」
がばっと帽子を取られてしまった。
ついでに髭もだ。
哀れにもぼくはサンタじゃなくてトシオに戻ってしまった。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が降りた。
「……ど、どうしてわかったの?」
じろりと睨みつけられる。
そりゃそうだよね!
むしろこんな学芸会並みの変装で誤魔化そうとしてたほうがおかしいよ!
あぁ、ごめんなさい、ごめんなさい。
決して悪気があったわけじゃないんだけど……。
するとエルフちゃんが、ぼそっと言った。
「う、うちがトシオをわからんわけないん」
「あ……」
エルフちゃんが拗ねたように唇を尖らせている。
その仕草がなんかすごく可愛く思えて、思わずぼくは笑ってしまった。
「あ、どうして笑うん!」
「いや、なんか、ねえ?」
「うち怒っとるんよ!」
……そうだった。
ここは茶化していい場面じゃないんだ。
「……エルフちゃん、サンタの夢を壊しちゃってごめんね」
「べつにいいん。どうせ、こっちで暮らしてたらいつかわかることやもん」
「でも、ごめん」
「…………」
エルフちゃんが小さくため息をついた。
「ほんとは怒ってないもん。ただ、ちょっと驚いただけ」
「……そっか。ありがとう」
ぼくはポケットから、例のものを取りだした。
赤い包みの長方形の箱。
「これ、どうしたん?」
「えっと、エルフちゃんにクリスマスプレゼント」
「え、いいの!?」
「うん。いつも頑張ってくれてるからね」
彼女がきらきらした目で言った。
「うち大事にする!」
「はは。そんな大層なものは入っていないよ」
「で、でも大事にするん。ほんとよ」
「そっか」
よかった。
どうやら喜んでくれているみたいだ。
そうして、ぼくはエルフちゃんのマンションをあとにしたのだった。
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