第40話 エルフとクリスマス①
少し考えればわかることだった。
『サンタはいない』
それはエルフちゃんたちにとって、大人になったからといって理解できるものではない。
だって、そもそも彼女たち自身が空想の産物とされていた存在なのだ。
そんな彼女たちにとってサンタは歴とした『生ける伝説』であり、それを否定されることはある意味で彼女たち自身を否定されることになる。
「はあ……」
エルフちゃんがため息をこぼした。
隣のレジから、ものすごい負のオーラを感じる。
「人間って勝手なん……。自分たちの都合で夢を見せて、自分たちの都合でそれを壊すん。でも悪いのは信じてたお馬鹿さんたちなんね。うち正月に実家帰ったとき、どんな顔で妹たちに会えばいいかわからん……」
ちくちくと言葉の棘が刺さる。
しかし、これは甘んじて受け入れなければいけない。
彼女の純粋な心を踏みにじったのは、他ならぬぼくなのだ。
どうにかして償いを――いや、彼女に「本当はサンタはいる」と思わせることができれば。
ぼくは事務所にいるときに、ふとそれを見た。
……クリスマスのために、店長が用意したサンタクロースのコスプレグッズ。
うちは女の子の外見的水準が高いから、結局、この男性用のものは使われなかった。
「……よし」
ぼくは決心すると、バイトの終わりを待った。
―*―
「……お疲れさまでした」
エルフちゃんが消え入りそうな声でつぶやくと、着替えるために事務所に入ろうとする。
ぼくは慌ててそれを呼び止めた。
「エルフちゃん」
彼女はゆっくり振り返った。
「……なん?」
おおっと、これはひどい。
彼女にとって、サンタクロースの真実は意外にきているようだ。
「ちょっと、店長がバックルームの整理をして帰ってほしいって言ってるんだ。残業になるけど、お願いできないかな」
「……トシオは?」
「ごめんね。これから用事があって……」
とっさに嘘をついてしまった。
エルフちゃんは少し考えて、頷いてくれた。
「……わかった」
ごめん、エルフちゃん!
ぼくは店を出ると、エルフちゃんの住むマンションに向かった。
エントランスの番号は、この前、エルフちゃんが教えてくれた。
ええっと、合い鍵は確かポストだったな。
……いや、教えてくれたのは非常時のためにね。ほんとだよ?
ぼくはエルフちゃんの部屋の前に来ると、ぎゅっとこぶしを握りしめた。
やるぞ。
≪つづく≫
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