第38話 姫騎士とクリスマス②


「き、貴様は……!」


 姫騎士ちゃんの声に振り返ると、駐車場の真ん中に赤い人影が立っていた。

 あの三角形の帽子。

 同じく赤い上着。

 そして背中に担いだ、大きな白い布袋。


 間違いない。

 あれはクリスマスが生んだ伝説。

 サンタクロ――。


 ……じゃないな。


「オークくん、なにやってるの?」


 すると彼は、特徴的な丸い鼻をひくひくさせた。


「うっす。違うっす。自分、サンタクロースっす」


 さすがはオークくん、嘘ひとつにしても男らしい清々しさを感じるぜ!

 その堂々とした振る舞いに、ぼくは何も言えなくなってしまったぞ!


 すると姫騎士ちゃん、まったく疑わずに叫んだ。


「な、なにい! 貴様があのサンタクロースだと!?」


 ……姫騎士ちゃんって、オークくんのこと好きなんだよね?

 げんなりしている間にも、なにやらふたりの間に火花が散っていた。


「フ、フフフ! 貴様があの赤い悪魔というわけか。ここへ何をしにやってきた!」


 あれ、なにか不穏な言葉が聞こえたけど。


「どういうこと?」


「と、トシオどの! はやく店の中へ! あいつはわたしが食い止めます!」


「いや、だからどういうこと?」


 勝手に盛り上がっている姫騎士ちゃんに聞く。


「トシオどのはサンタを知らないのですか! あれは姫騎士族に伝わる悪霊! クリスマスの日、夜更かししている子どもをあの布袋に詰め込んでさらって行く悪魔です!」


 いや、それはぼくの知っているサンタクロースじゃないなあ。

 まあ、人間界の伝説だって国が違えば解釈も違うものだ。

 きっと姫騎士族的には、サンタは子どもを躾けるための存在なんだろうな。


「くそ。なぜここに来た! ここに悪い子など、いないではないか!」


「違うっす。自分は今日、子どもをさらいに来たのではないっす」


 そう言って、オークくんはビシッと姫騎士ちゃんを指さした。


「そのケーキを頂きに来たっす!」


「な、なにい!?」


 うわーい、これは予想できない超展開だぞー。


「な、なぜケーキを!?」


「それは、自分がさらった子どもに食べさせてやるためっす!」


「や、やめろ! これを奪われては、わたしがすべて補てんしなくてはいけなくなる!」


「問答無用っす!」


 姫騎士ちゃんは、とっさに立てかけてあった箒を手に取った。

 そして剣のように構えると、それをオークく……、いやサンタに向かって振った。


 ――ガキーン!


 鋭い衝突音が、寒空の下に響いたのだった。


 ≪つづく≫

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