第37話 姫騎士とクリスマス①


 メリークリスマス。

 街は今年の最後のお祭りで賑わっているよ。


 もちろんぼくはバイト。

 予定はあるの、なんて聞くまでもないよね。


 うちのコンビニもクリスマス一色だ。

 窓ガラスには白いスプレーでそれっぽいイラストを描き、店内もお星さまやら何やらでキラキラしている。

 ちなみにコーディネート担当はオークくんだ。

 本当に彼は頼りになるよね。


「お疲れさまです」


 そこにエルフちゃんがやってきた。

 意外にも彼女もお暇な日らしい。


 ……学校の友だちとかいないのかな。


「トシオ。今日はクリスマスですね!」


「そうだねえ」


 エルフちゃんの目がキラキラしている。


「やっぱり異世界のほうもクリスマスってあるの?」


「当然です! この日だけは質素倹約のエルフ族も贅沢を許してもらえますからね!」


 と言いながら、ふと店頭に目を向ける。


「……ところで、姫騎士さんはどうしたんですか?」


「あー……」


 ぼくも窓ガラスから外を見る。

 倉庫から持ち出した長机を広げ、サンタクロースの赤い服を着た姫騎士ちゃんが立っていた。

 その机の上には、山積みされたクリスマスケーキがある。


 姫騎士ちゃんはお客さんが店に入ろうとすると、その前に立ちはだかった。


「よくぞ来た! ほら、クリスマスにケーキはどうだ! というか買ってくれ! 貴様は買うべきだ! 頼む、人助けだと思って!」


 後半になるにつれて声が涙声になってしまっている。

 挙句、無視して店に入ろうとするお客さんに泣きながらすがりつく始末。


「お、おねがいじばず。がっでぐだざい!」


 ……さすがに止めなきゃなあ。


「姫騎士ちゃん。お客さんに無理強いはダメだよ」


「し、しかし、これでは……」


 まあ、気持ちはわかるけどねえ。


 このケーキの山、ゆうに二十個近くある。

 これでも何個か売れたのだ。


 もちろん、うちはこんな量を店頭でさばくような店舗ではない。


 ぶっちゃけると、姫騎士ちゃんの発注ミスによってきてしまったケーキたちなのである。

 どちらさんかの予約をするときに、うっかり「2個」を「20個」と打ってしまったのだ。


 もし売れ残れば、明日は半額、いや下手をすればそれ以下の捨て値で売ることになる。

 スタッフによる損害は手出しになるこの店では、つまりその差額を姫騎士ちゃんが出さなければならない!


 ということで、もともとは休みのはずだった姫騎士ちゃんは、こうして出張ってきて寒空の下で売り子をやっているわけだ。


 みんなも知っていると思うけど、ケーキというのは高い。

 クリスマスのホールケーキだったらなおさらだ。

 いつもは尊大な態度を崩さない姫騎士ちゃんだけど、さすがに今日は必死に売りつけようと頑張っている。


 なんとかしてあげたいけど、ぼくもひとり暮らしでホールケーキなんて食べないからなあ。

 それに、買ってくれそうな知り合いにはすでに予約をしてもらったしね。


「神はいないのか……」


 いや、神さまって日ごろからサボってるひとに救いの手は差し伸べないんじゃないかな。

 そんなことを思っているとき、ふと駐車場に怪しい人影が立っていた。


 ≪つづく≫

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