第36話 エルフと冬の思い出②


 おじさんはいつも仕事で疲れた感じなんだけど、目が合うとにこっと笑って「お疲れさま。頑張ってね」と声をかけてくれる優しいひとだった。

 たまに交わす会話の中から、彼が独身で、実家は栃木、こちらには仕事の都合でやって来たのだと聞いていた。


 そしてその日、ぼくはいつものようにレジを打っていた。

 すると、いつもより早い時間におじさんがやってきた。


「いらっしゃいませー」


 目を向けて、ぼくは驚いた。

 おじさんはいつもと同じ服装なんだけど、その後ろにはすごくきれいな女のひとたちを連れていたんだ。


 別にそれがどうしたと言われれば、まあそうなんだけどね。

 ただ、さすがに若くてきれいな女のひとを三人も連れて歩いていれば、この狭い店内では目立ってしょうがない。

 それにその日はお客さんが少なかったから、余計に目を引いた。


 おじさんは彼女たちを連れて、カゴにお菓子やら缶チューハイやらを山盛りにしてレジに持ってきた。

 ぼくは内心では動揺していたんだけど、それを悟られないように会計をしていた。


 友人かな?

 そう思ったけど、どうも違うようだ。

 おじさんは彼女たちに「あ、飲みたいものとかあったらどうぞ」と他人行儀だし、女のひとたちも「あ、いえ。けっこうです」と遠慮がちだ。


 仕事先の飲み会の買い出し?

 でも、それだとメンバーの構成比がおかしいよね。

 もっと荷物持ちの男性が多いはずだ。

 実際、ビニール袋三つ分の買い物は、ぜんぶ彼が持って行ってしまった。


 もしかして、そっち系のお仕事をしているひとたちかなあ。

 ……でも、さすがに一度に三人て。


 うーん。謎だ。

 とにかく、おじさんはすごくにこにこしてご機嫌な様子だった。

 きっと彼にとって、その日はなにか楽しいことが待っていたんだろうね。




「……そ、それで?」


 エルフちゃんが、どきどきした様子でぼくに言った。

 思いのほか、真剣に聞いてくれているみたいだ。


 でも、申し訳ないんだけど……。


「これでおしまい」


「え!?」


 エルフちゃんがぐいぐいと袖を引っ張る。

 痛い、痛い。制服が伸びちゃうからやめて。


「そのおじさん、どうなったん!?」


「さあねえ。それは神のみぞ知るってところかな」


 家までついていくわけにもいかないしね。


「あ、そのおじさんに聞いてみればいいんよ! だって常連さんなん!」


「それがねえ。あれ以来、おじさん、ぱったりと来なくなっちゃったんだよねえ」


「…………」


 エルフちゃんの表情が固まってしまった。

 その顔色が、みるみる青くなっていく。


 あ。そうこういっているうちに、そろそろ搬入の時間だ。

 見れば、駐車場に大きな配送トラックが入ってくる。

 ぼくは検品用のバーコードリーダーの電源を入れた。


「……まあ、なにか事件とかに巻き込まれていないといいねえ」


「……う、うん」


 ふたりで配送スタッフが荷を降ろしているのを見ながら、ぼくらはどこかで元気にしているはずのおじさんに思いを馳せていた。

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