第34話 エルフと宅配便
正直に言って、エルフちゃんはミスが多い。
いや、そもそもまだ名札の新人カードも外れていないし、ここが初めてのバイトというからしょうがないことだ。
ぼくと同じシフトのときはカバーするように心がけているけど、他の時間帯ではなかなかそうはいかない。
特に厄介なのが、郵便物の受付などである。
常連さんがいない限り、こういうのは突発的だ。
一度は習っても、忘れたころにやってくる。
そのためか、エルフちゃんは控えの書類のあれこれで何度かミスをしてしまっていた。
で、エルフちゃんのミスをカバーする方法がないかと考えていたところ。
「トシオ、わたしは思いつきました!」
エルフちゃんがどや顔で宣言した。
うーん。嫌な予感しかしないなあ。
「どういうの?」
「ふっふっふ。トシオ、ちょっと屈んでください」
言われたとおりに屈む。
すると、エルフちゃんと目線が同じくらいになった。
「では」
そう言うと、エルフちゃんはふと、ぼくの頭を両手で固定した。
そして、そっと顔を近づけた。
――ちゅ。
「え、え、エルフちゃん!?」
突然、額にキスされた。
「どうしましたか?」
「ど、どうしましたって……」
エルフちゃんは平然としたものだ。
いや、ぼくのほうが歳上なのに動揺してどうする。
……田舎のほうが進んでるって聞いたことあるけど、まさかね。
「……コホン。で、いまはなにをしたの?」
「それはですね」
エルフちゃんが指をぱちんと鳴らした。
突然、ぼくの視界が別のものに変わってしまった。
具体的に言うと、ぼくがぼくの顔を見ているという奇怪な状況になっていたのだ。
「な、なにこれ!?」
ぼくは顔を真っ赤にしながら、ものすごく動揺していた。
すると、再び視界が元に戻った。
エルフちゃんが、ふっふっふ、と意味深な笑みを浮かべる。
『トシオにわたしの精霊の力の一部を移しました。これでわたしが許可したときだけ、わたしの視界をトシオが見ることができます。ちなみに、離れていてもテレパシーで通話することが可能です』
実際、その言葉はぼくの脳内に直接、聞こえているようだった。
「へ、へえ。確かにこれなら、手が離せないときでもエルフちゃんのカバーができるね」
こんなこともできるなんて、魔法って便利なものだなあ。
やがてレジが混みだした。
そのとき、隣のエルフちゃんのレジに、けっこう大きめの段ボールを抱えたお客さんがやって来た。
「あのー。これ、大阪まで送りたいんですけどー」
「あ、は、はい……」
エルフちゃんが自信なさげに受付を始めた。
『と、トシオ。わからん……』
と、ぼくの視界の半分がエルフちゃんのものに切り替わった。
どうやらヘルプを求められているらしい。
『どうしたの?』
そこには宅配便の伝票が見えていた。
『これ、どれを書くんやったん?』
『それはねえ……』
無事に受付を済ませ、お客さんが少なくなったころに手を合わせた。
「大成功やったん!」
「やったねえ」
ぼくらは喜びをかみしめ合った。
いやあ、本当に便利だなあ。
また忙しそうな日なんかにかけてもらおうか。
……決して、下心で言っているわけではなくてね。
あれ。でも、そういえば……。
「で、この魔法はいつ解けるの?」
「え?」
うん?
エルフちゃんが、そっと目を逸らした。
「……エルフちゃん?」
「あ、うち掃除機かけてこんと!」
そう言って、すたこらバックルームに行ってしまった。
エルフちゃ――――ん!?
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