第33話 エルフと凍った缶コーヒー事件③


 と、一応は驚いて見たけれど。


「あ、ほんとだ。ぼくの責番だね」


 責任番号はこう略して言うことが多い。


「そう。だからトシオ、わたしは……」


「うん。ごめんね。今度から気をつけるよ」


「え? あ、いや、そういうことじゃなくて……」


「でもおかしいなあ。ぼく、コーヒーはブラックのはずなんだけど」


 これ、微糖でミルクも多めのやつだよなあ。


「それで名探偵のエルフちゃんは、犯人を見つけてどうするの?」


「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました!」


 そして得意げな感じで宣言した。


「トシオには罰として、わたしの言うことをなんでも一個、聞いてもらいます!」


 おおっと、まさかそう来るとは。

 ていうか、理屈がおかしいね。

 まあ、言わないでおくけどさ。


 しかし、今日のエルフちゃんはずいぶん好戦的だなあ。

 もしかしてさっきの、まだ根に持ってるのかな。


「わかった、わかった。じゃあエルフちゃんはぼくに、なにをしてほしいのかな」


 ぎょっとしたあと、急に顔を真っ赤にして考え始めた。

 そこまでは考えてなかったのかあ。


 そのとき、レジから声がした。


「すみませーん」


「あ、お客さんだ。エルフちゃん、レジお願い!」


「あ! は、はい!」


 しばらくして、やっとお客さんの列から解放された。

 やれやれ。今日はやけに多かったなあ。


「エルフちゃん。ぼく、ちょっと休憩に入るよ」


「あ、うん」


 ぼくは事務室に入ると、椅子に座って


 いやあ、しかしエルフちゃんからなにをねだられるんだろうね。

 そう思いながら、さっき凍っていた缶コーヒーを振った。


 ……いい感じに溶けてるな。

 ちょっと前のものだけど、凍ってたなら問題ないよね。


 ごくり。


 と、すごい勢いでエルフちゃんがドアを開けた。


「と、トシオ!」


「え、どうしたの?」


「そ、それ飲んだん?」


 それ、とはさっき凍ってた缶コーヒーだ。


「うん。それがどうしたの?」


 なぜかエルフちゃんは青い顔になり、続いて頬を真っ赤に染めた。

 なんか回転式の灯籠みたいでおもしろいな。


「い、いや。なんでもないん……」


 そう言うと、なぜか彼女はぎくしゃくした動作で戻っていった。


 どうしたんだろう。

 と、そこでふと、ぼくは缶コーヒーに貼ってたレシートを見た。


 あれ。このポイントカードの会員番号、ぼくのじゃない?

 財布から取り出してみると、やっぱり表示された下四桁は違っていた。


 あっちゃあ。

 やっぱり別のひとのものだったか。


 でもおかしいな。

 ぼくの責番だってことは、ぼくと同じシフトに入っていたひとだということになる。

 オークくんはコーヒーは飲まないし、姫騎士ちゃんはポイントカード持ってなかったはずだ。


 あー。まあ、いいか。

 いままで放置されてたんだし、まさか本人が思い出すこともないでしょ。


 その後、なぜかまたエルフちゃんが全く口を利いてくれなかった。

 なにか気に障ることでもしたかなあ。

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