第32話 エルフと凍った缶コーヒー事件②


 さて。

 その事件はエルフちゃんの白……、げふんげふん、エルフちゃんを落ち着かせたあとに起こった。


「あれ。これ、なんですか?」


「どうしたの?」


 エルフちゃんが冷凍庫の前にしゃがんで、その中に手を突っ込んだ。

 もう片方の手でスカートを押さえ、じろっとぼくを睨むのも忘れない。


 ……ぼくが悪いんじゃないんだけどなあ。


 そして取り出したのは、それはふたつきの缶コーヒーだった。

 見事にカチンコチンになってしまっている。

 たぶん、一日やそこらのものじゃないなあ。


「誰かが入れて忘れちゃったんだろうねえ」


 これもあるといえばけっこうある。

 とはいえ、ここまで放置されていたものはさすがに初めてだった。


「誰でしょうか」


「そうだねえ。オークくんは忘れる子じゃないからなあ」


 ふと頭に浮かんだのは白銀の甲冑に身を包んで高笑いする女の子。

 いやいや、根拠なく疑うのはよくない。

 前にも似たようなことがあったじゃないか。


 するとエルフちゃんが言った。


「トシオ。わたしは犯人を特定する手段を閃きました」


 犯人て。


「いや、エルフちゃん? そもそも悪いことしてるわけじゃないし、べつにいいんじゃないかな」


 どうせ本人も忘れているんだし、このまま捨ててなかったことにすればいいと思うんだけど。


「いいえ。それはいけません。たとえ悪意ではないにしろ、こうやって店の冷凍庫の一部を占拠していたというなら、それはきちんと反省するべきです」


 まあ、確かにそうかもしれない。

 エルフちゃん、なんだかんだ真面目な子なんだよな。

 ちょっと融通が利かないところがあるけど。


 すると彼女は得意げに鼻を鳴らした。


「それに、もう犯人はわかっています」


「え、どうして?」


「これです!」


 エルフちゃんは缶コーヒーに張り付けられたレシートを指さした。


 そう、気軽に誰でも買い物ができるというのがコンビニの売りだ。

 スタッフだって買い物ができるということは、不正を働きやすいということでもある。

 そこでスタッフが買った場合、レシートをテープで貼りつけておくのだ。

 その缶コーヒーも例外ではなく、買った際のレシートが貼りつけてあった。


 そしてレシートには、その会計を担当したレジ担当者の番号が記載されている。

 責任番号というやつだね。


「あぁ、なるほど」


 これはレジに入るとき、自分の名札のバーコードをピッとすることで登録される。

 スタッフが買うとき、だいたいは自分の番号でお会計を済ませるものだ。

 つまり、その責任番号のひとがこれを置き忘れた張本人の可能性が高い。


 エルフちゃんにしては冴えてるな。


 すると彼女は、なぜかぼくを見た。


「フフフ。観念してくださいね」


 どういうことだ?


 エルフちゃんはぼくを指さすと、得意のどや顔を炸裂させたのだった。


「この番号は023。つまりトシオ、あなたのものです!」


 な、なんだってえ――――!?


 ≪つづいてしまった……≫

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