第30話 エルフとトイレ掃除


 うちのコンビニは、一日に四回の掃除時間がある。

 早朝、昼前、夕方、深夜だ。


 まず外。

 店の前のゴミ箱、タバコの吸い殻入れ、駐車場の掃き掃除。

 次に店内。

 掃除機かけ、そしてトイレ掃除だ。


 これらをシフト交代の時間に合わせて三人で行う。

 特にどこが誰の当番と決まっているわけではないけど、ゴミ出しを行う外の掃除は暗黙的に男性の担当になっている。

 そして店内の掃除は女性スタッフが行うことが多い。


「……行くぞ」


「……はい」


 姫騎士ちゃんとエルフちゃんが、真剣な顔で対峙している。

 ふたりは右手を振り上げると、一斉に叫んだ。


「「じゃんけんぽい!」」


 姫騎士ちゃんがチョキ。

 エルフちゃんがパー。


 姫騎士ちゃんが腕を振り上げた。


「よし! わたしは掃除機をかけるぞ」


 そう言って、意気揚々とバックルームへ行ってしまった。

 エルフちゃんはうなだれている。


「……わたしがトイレ掃除、わたしがトイレ……」


 そんなに悲しむことかなあ。


「エルフちゃんたちって、トイレ掃除、苦手だよねえ」


 話によると、エルフの里では排泄物を各々が肥料として処理するため、わざわざ便器を掃除する習慣がないのだそうだ。

 姫騎士ちゃんに至っては向こうではメイド族がぜんぶやってくれるということで、最初は彼女には掃除という概念すらなかった。


「そもそもトイレ掃除が好きってどういう神経してるかわからん!」


 こらこら。

 全国の掃除好きなひとに謝りなさい。


 まあ、でも他人が使ったトイレの掃除っていうのは、慣れるまでは辛いよねえ。


「がんばりなよ。そうだ、終わったらチョコをあげよう」


 大学の講義の前に買ったのが、バックの中に入っていたはずだ。

 とはいえ、高校生がこの程度の餌に釣られるかと言われれば……。


「うち、がんばる!」


 エルフちゃんは掃除用具を取りに、鼻息を荒くしながらバックルームへ行ってしまった。

 ……最近、エルフちゃんの扱い方がわかってきたなあ。


「うっす。外の掃除、終わりましたっす」


「あ、オークくん。ありがとうね」


 ぼくらでレジをやっていると、パチンコ帰りのおじさんが入ってきた。


「おう、トイレ使うかんな」


「はーい」


 あれ?

 反射的に返事をしてしまったが、なにか忘れているような。


 ガラガラ、バタン。


「うぎゃああああああああああ」


 エルフちゃんの悲鳴が聞こえた。


 ドタドタ、ガシャン。


 慌てて向かうと、エルフちゃんがトイレの前で涙ぐんでいた。


「ど、どうしたの!?」


「……どうして、どうしてこっちのおじさんって掃除してるのにどんどん入ってくるん?」


 あー、うん。

 慣れないうちは恐いよねえ。


「今度からトイレの前に清掃中のカード下げとこうね」


「うん……」


 まあ、それも効果があるかわからないけどね。

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