第29話 エルフとかぼちゃケーキ
「お、お菓子をくれないと悪戯するん!」
エルフちゃんが顔を真っ赤にして叫んだ。
「…………」
「…………」
ぼくは無言でレジの脇にあるかぼちゃ饅頭を手に取ると、バーコードをピッとする。
ポケットに入れた小銭入れから二百円を置いて会計をした。
「うわーい」
エルフちゃんはそれを受け取ると、小躍りしながら事務所に入っていった。
あの子、一応は高校生なんだよね?
というか恥ずかしいならやらなければいいのに。
十月三十一日。
ハロウィンである。
みんなも知っている通り、西洋のお祭りのひとつだ。
秋の収穫を祝い悪霊を追い出す行事だけど、日本では路上仮装大会みたいなイメージが強いよね。
異世界との交流が始まったいま、わりとガチなひとたちが混ざっていたりしてパレードは盛り上がる一方だ。
うちのコンビニでも店内をそれらしく飾り立て、関連商品としてかぼちゃケーキとかを入荷している。
女性スタッフは魔女の帽子をかぶることになっているんだけど、金髪碧眼のエルフちゃんだとそれっぽすぎて逆に浮いちゃってるね。
と、再びレジに黒い影がやってきた。
「お、お菓子をくれないと悪戯するよ!」
かぼちゃである。
大きなかぼちゃを被ったひとが、ぼくに向かって手を差し出していた。
「…………」
体格的に、きっと彼女だろう。
ご丁寧にマントまでかぶって、完全になりきっているな。
「……エルフちゃん。もうあげたでしょ?」
「え?」
「いくらお菓子が食べたいって言っても、二度はだめだよ。はやく着替えてきなよ」
「あの、えっと……」
うん?
なんだか様子がおかしい。
かぼちゃはすごく戸惑っている様子だった。
エルフちゃんだったら、すぐに正体を現すはずなのに。
「あ。ジャック・オー・ランタンじゃないですか」
「はい?」
振り返ると、制服に着替えたエルフちゃんが饅頭をもぐもぐしながら現れた。
だからこっちで食べてはいけないとあれほど……。
いや、そういうことじゃなくて。
「あれ。エルフちゃんじゃなかったの?」
「違いますよ。このひと正真正銘、異世界のほうからきたジャックさんです」
「えぇ!?」
確かにかぼちゃのくり抜かれた部分を覗いても、なにもないようだった。
「ど、どうしてこんなところに?」
「あ。いえ、はい。わたくしども、お菓子を集めるノルマが決まっているのですけど、あっちではすでに新規の顧客の獲得が難しく……。なにぶん、わたくし新人でして、こっちの世界のほうを回らせていただいております」
名刺を頂戴した。
なんか思ったよりも会社人だなあ。
「どうしてぼくに?」
「先ほど、そちらのエルフのお嬢さんにお菓子を渡しているところを見まして、この行事にもご理解のある方ではないかと」
「そ、そうですか……」
ぼくは迷った末に、スイーツコーナーからかぼちゃケーキを持ってきた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
しかしそれを受け取ったジャックさんは、なんとも微妙な顔(?)でうなった。
「どうしました?」
「えっと、大変、申し上げにくいのですけど……」
うん?
「共食いはちょっと……」
あー。
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