第28話 エルフとフラッペ


 飲料、お菓子、お弁当などのチルド製品。

 コンビニは常に最新の商品が並ぶ。


 その入れ替わりは早い。

 気になっている商品を「また今度」と思っていると、うっかり買いそびれてしまうこともある。


 あるいはとても気に入っていた商品が、シーズンが終わって入荷されなくなるという経験も多いだろう。

 特にアイスやホット飲料など、季節感の強いものはずっと置かれるわけではない。


 そしてここにも、その苦悩に身を焦がすお客さんがひとり。


「やあだああああああ」


「こら、泣かないの!」


 レジの前で、男の子がぎゃん泣きしている。

 お母さんもほとほと困り果ててしまっていた。


「ないものはないの。もう帰るよ」


「やあだあああああ」


 ぼくは苦笑いをするしかなかった。


 男の子は先日までこの店舗で販売していた『いちごフラッペ』を飲みたいと言ったのだ。

 フラッペっていうのは、いわゆるかき氷のことだ。

 それにミルクやコーヒーをかけて混ぜた商品が、この夏、ずいぶん好評だったらしい。


 で、かき氷というくらいだから、もちろん夏限定の商品だ。

 うちでも先日から入荷がストップして、もう在庫もなくなっていた。


「す、すみません……」


「いえ、まあ……」


 とはいえ、レジの前で騒がれたら大変だ。

 ぼくは他のお客さんの会計をしながら、店内を見回した。


 エルフちゃん、どこ行ったんだろう?


 レジの対応をしてほしいけど、さっきから姿が見えないな……。


 そう思ってると、ふとバックルームからエルフちゃんが出てきた。

 その手にあるものを見て、ぼくは驚いた。


「エルフちゃん、それ……」


 男の子も気づいたようで、一瞬で泣くのをやめる。


 エルフちゃんは手にしていたもの――在庫がなくなっていたはずのいちごフラッペを男の子に差し出した。


「裏にありました。これが最後なので、大事に飲んでください」


「お姉ちゃん、ありがとう!」


 男の子はご満悦の表情でお母さんと帰っていった。


「エルフちゃん、あれは?」


「裏の冷凍庫の奥に隠れていました。たぶん、出し忘れていたんだと思います」


「そっか。よかったね」


「はい」


 エルフちゃんは、少し誇らしげにうなずいた。

 やっぱり、子どもの笑顔を見るのは嬉しいものだよね。


 とまあ、ここまではいい話なんだけど。


「……で、あと何個、隠してるの?」


 ぎくっ。


 エルフちゃんがそっと目を逸らした。


「な、なんのことかさっぱり……」


「まだあるんでしょ? 店長がデータ上はまだ在庫があるって言ってたけど、エルフちゃんが隠してたんだね」


「ち、違うもん! うちじゃないもん!」


「じゃあ、どうして隠してた場所がわかったの?」


「そ、それは……」


 エルフちゃんはあっさり観念してしまった。


「残り、全部出しとくからね」


「お、お慈悲! どうかお慈悲を!」


「だーめ。また店長からどやされるよ」


「だって冬も売ってないのが悪いん!」


「メーカーがつくってないんだから、しょうがないでしょ。また来年ね」


 その日、シフトが終わってエルフちゃんは最後のフラッペを名残惜しそうに食べていた。

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