第25話 エルフと花火①


 夏が終わって、秋がくる。

 その過程で、必ず発生するイベントがある。


「トシオさん。これ、どうするんすか?」


「うーん。どうしようかなあ」


 バックルーム。

 ぼくとオークくんの目の前にあるのは、この夏に売れ残った大量の花火。


「店長はなんて言ってたんすか?」


「うーん。頃合いになったら半額にするって言ってたけど……」


「それ、いつの話っすか?」


「えーっと、九月の初めのころの話だったかなあ」


 カレンダーを見ると、もう十月。

 シーズンが終わり、商品棚のレイアウト変更のために一時的にバックルームへ。

 ――そして案の定、そのまま忘れられて放置された在庫たち。


 商品の整理をしているとき、こうして見つけてしまった次第である。


「いまから半額にして売れるんすか?」


「難しいかもねえ」


 洋服と違って、こればかりは「また来シーズンに使うから」とはいかないものだ。

 時期を逃せば、半額にしても売れないものだってある。


「参ったなあ。一応、店長には言っとくから、いまから半額シールつけてワゴンに乗っけようか」


「うっす」


 ちまちまと値札シールをつけて、店内の隅っこに出した。

 それから数時間、ぼくらはどきどきしながらその動向を見守った。


「……売れないっすね」


「うん」


 まあ、わかっていたことではあるんだけどね。

 誰も手に取らないし、お客さんの表情には「え、いまさら?」という感情がありありと浮かんでいる。


 と、そのときだった。


「お、お疲れさまです」


 学校帰りらしく、制服姿のエルフちゃんがやってきた。

 まだシフト外で買い物をするのは緊張するらしく、どこかぎくしゃくしている。


 からい系のお菓子と飲み物をレジに置きながら、彼女は大量の花火を見た。


「あれ、なに?」


「花火だよ。夏の在庫が出てきちゃってね」


「花火ってなに?」


 その言葉に、ぼくは目を丸くした。


「あれ、花火って知らない?」


 ふるふる。


 ははあ。

 もしかして、エルフの里に花火ってないのかな。


「えーっと、火をつけて遊ぶ夏の風物詩なんだけど。こう、シュボーッて虹色の火が飛び出してきてね。とってもきれいで楽しいんだよ」


 一応、説明してみるけど、どうもしっくりきていないようだ。


 まあ、そうだよね。

 いまの説明で花火を想像しろっていうのが無理な話か。


「まあ、余っちゃって困ってるんだ。また店長に言っておくから、エルフちゃんは気にしなくていいよ」


「あ、うん。わかった」


 そう言って、エルフちゃんは帰っていった。


 ――そして三十分後。


 突然、エルフちゃんが店に駆け込んできた。

 そしてワゴンを見て、花火がまだ売れていないことを確認。


 ワゴンの花火を前も見えないほど抱えると、よろよろとレジに持ってきた。

 それをカウンターの上に積むと、彼女は目をキラキラさせながら言い放った。


「花火やる!」


「あ、うん。……え?」


 うーん?


 ≪つづく≫

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る