第24話 姫騎士と立ち読み②
「あ!」
その声を上げたのは、コンビニに入ってきた姫騎士ちゃんだった。
金髪のお姉さんと目が合ったかと思うと、途端に踵を返す。
ドアの外に駆け出した
「確保!」
お姉さんが叫ぶと同時に、メイドさんがものすごい跳躍で姫騎士ちゃんに襲い掛かった。
さすがポンコツ姫騎士である姫騎士ちゃんは、その人間離れした追跡者に一瞬で捕まってしまった。
「は、放せ!」
「お嬢さま、観念なさってください」
お嬢さま?
するとお姉さんが姫騎士ちゃんの前に立った。
姫騎士ちゃんは、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「あ、姉上……」
なぬ?
するとお姉さん、にこりと微笑んだ。
「姫騎士ちゃ――――ん!」
ぐわしっ!
お姉さんは唐突に姫騎士ちゃんに抱き付くと、その身体をわしゃわしゃまさぐりだした。
「もう、突然、家を出るから心配したのよ! まさかこんなところにいたなんて思わなかった! これも女神さまのお導きね! もう放さないわ!」
「あ、姉上! やめて! ひ、ひとが見ています!」
ハグ、頬ずり、キス、ものすごい甘っ可愛がりだ。
さっきの親子連れが、まるで逃げるように店を出ていった。
……あれ。あのひとたちお会計したっけ?
そんなぼくの心配など梅雨知らず、お姉さんの可愛がりは続く。
「うふふ、うふふふ。どうしてわたくしから逃げるのかしら。いつもこうやって大事にしてあげているのに」
「そういうところです! わたしを玩具にして遊ぶからです!」
「遊んでなんかいないわ。わたくしは家族を愛しているだけよ」
「成長を記録すると言ってお風呂にカメラを仕掛けるのを家族愛とは言いません!」
うわあ。
ぼくが少し……、いやかなりドン引きしていると、ふと横にオークくんが立っていた。
「あ、オークくん」
「お疲れさまっす」
「お疲れ。今日シフトだっけ?」
「いえ。ちょっと用事がありまして」
するとお姉さんが、パッと姫騎士ちゃんを解放した。
「あら。オークさん」
「どうもっす」
あれ、知り合い?
「あ、姉上! このオークとどういう知り合いで!?」
姫騎士ちゃんが必死な感じで叫んだ。
すると、オークくんたちは顔を見合わせた。
「同じゼミなんす」
「えぇ、えぇ。今日はレポートの資料を貸してもらう約束でして」
そう言って、オークくんは持っていた分厚い本をメイドさんに渡した。
あぁ、なるほど。
「でも、それなら大学でやればいいんじゃないの?」
「うっす。自分もそう言ったんすけど」
お姉さんはふんわりと微笑んだ。
「いえ。オークさん、今日は大学は休みの日だったので。わたくしが無理をお願いしたのですし、このくらい当然ですわ」
そして、じろりとまるで獲物を見るような目で姫騎士ちゃんを見た。
「それに今日は、思わぬ収穫がありましたし……」
姫騎士ちゃんはびくりと震えた。
「姫騎士ちゃんの場所はわかりました。また来ますからね~」
そう言って、まるで台風のようなお姉さんは去っていってしまった。
≪つづく≫
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