第23話 姫騎士と立ち読み①


 コンビニの日常風景といえば、やはり代表的なのは雑誌の立ち読みだと思う。


 暗黙の了解として、スタッフも立ち読みは見過ごすことが多い。

 しかし原則として、商品は買ってから使うものだ。

 それに立ち読みは商品である雑誌の劣化につながりやすい。

 店舗によっては雑誌をビニールで包んだりと、立ち読みをさせない工夫をすることもある。


 そしてその日、ぼくのシフト中に困ったお客さんがやってきた。


「……あのう」


 ぼくはその金髪で碧眼の、大学生くらいお姉さんに声をかけた。


「はい。なんでしょうか」


「……座り読みは、お断りさせていただいているのですけど」


 するとそのひとは、にこりと微笑んだ。


「お構いなく」


 いや、構うよ。


 うちは立ち読みはやめさせないけど、基本的に座り読みは禁止。

 しかもこのひと、ただの立ち読み客じゃない。


「あの、それは?」


 まさか折り畳み椅子を持参して雑誌を読んでいるひとなんて、いままで見たことがない。

 しかも、なぜかうしろにはメイドらしき格好の女性も控えている。


 どこの中世から飛び出してきた貴族さまかな?


「はい。わたくし、ちょっとひとを待っていまして。長時間になると辛いと思い、持参いたしました」


 物腰は柔らかいけど、言ってることはめちゃくちゃだ。


「ではなくてですね、座って読まれると、通路の妨げになりまして……」


「まあ」


 そこでやっと、彼女はそのことに気づいたみたいだ。

 うしろを向くと、微動だにしないメイドさんに言った。


「あなた。ここでは椅子は使ってはいけないそうですわ」


「かしこまりました」


 するとメイドさんが折りたたみ椅子を片付けた。

 そして突然、その場に四つん這いになる。


「どうぞ、お嬢さま」


「ありがとう」


 そしてお姉さんは優雅な仕草でその背中に座っ……。


「そういう意味じゃなくて!」


 慌てて止める。

 するとなぜか、くわっと目を開いたメイドさんに怒鳴られた。


「止めないでください! むしろご褒美です!」


「あなたは何を言ってるんですか!」


 周りで買い物をしていたお母さんが、お子さんの目を手のひらで覆った。

 いけない、これでは変なうわさが立ってしまう。


「えっと、店内は一応、みんなで過ごすための場所ですので。そういった行動は慎んでください。どうしても座りたかったら、外の喫煙場所に椅子がありますので」


「それはしょうがないですね。わかりました」


 そう言って、お姉さんはメイドとともに出口に向かった。


 通り過ぎるとき、なぜかメイドさんにすごい顔で睨まれた。

 よほど椅子になるのを止められたのが癇に障ったらしい。


 なるほど。これが変態か。


 あのひとたち、海外のひとかなあ。

 ずいぶん日本語がうまいけど。

 しかし、どことなく誰かに似てるんだよなあ。


 雰囲気的に、むしろ異世界の……。


「あ!」


 すると店のドアが開いて、シフト交代の姫騎士ちゃんが入ってきた。


 ≪つづく≫

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