第20話 エルフとおでん③


 目を覚ますと、知らない天井があった。


 あー、どうしたんだっけ。

 たしか雨が止むまでエルフちゃんの家で雨宿りさせてもらえることになって。

 そしておでんを食べて……。


「と、トシオ! 大丈夫なん!」


 エルフちゃんが泣きべそをかきながらぼくを揺すっている。


「……なにがあったの?」


「トシオがおでん食べて倒れたん」


「へ、へえ」


 どういうことだろうね。

 おでんを見てみるけど、特になにも変わったことは……。


 おや。

 このスープ、なんかすごく唐辛子くさい?


「……エルフちゃん。これ、なに入れたの?」


 ぎくっ。


「な、なんも入れてな、い、よ?」


 視線がふよふよ泳いでしまっている。


「…………」


 ぼくはちょっとスープを口にした。


 ――ズガーン。


 ぐはっ。

 この脳天を貫くような刺激は……!


「エルフちゃん! なに入れたの!」


「な、なんも入れてないってば!」


 うそだ。

 ぼくはキッチンに向かうと、そこに広がる光景に絶句した。


 大量の唐辛子がすりつぶされて盛ってある。

 この量……。

 もしこれくらいがあのスープに溶けているとしたら……。


 じろりとエルフちゃんを見ると、彼女は汗をだらだら流しながら言った。


「し、静岡のほうに汁おでんってあるらしいんよ」


「それ、スープに唐辛子を溶かし込むやつ?」


「うん」


「……もしかして、あのおじさんがひとりでご飯食べる漫画で読んだの?」


「……うん」


 エルフちゃん、けっこう漫画の趣味が渋いんだね。


「でもこのスープ、一見、なんの変化もないけど……」


「あ、魔法で透明にしてるん」


 エルフちゃんが指を鳴らすと、スープがみるみるうちに唐辛子で真っ赤に染まっていった。

 いや、これがもし、本来の色なのだとしたら……。


「食べ物でなんてことするの!」


「だ、だっておいしいんよ! この辛さが病みつき!」


「だからって、こんな騙すようなことしちゃダメ!」


「だ、だってトシオ、ぜったいに食べてくれないもん!」


「当たり前だよ!」


 すると、エルフちゃんは目に涙を浮かべながら叫んだ。


「でも、自分がおいしいものは誰かに食べてほしいもん! お父ちゃんもおらんし、ひとりで食べても寂しいやん」


「エルフちゃん……」


 そうか。そうだよな。

 いくらちゃんとしているように見えても、やっぱりまだ高校生なんだ。

 きっと人恋しかったんだろうな。


 今度から、もっとエルフちゃんのことを見てあげるようにしよう。


「今度、みんなでご飯食べに行こうか。オークくんたちも誘ってさ」


「いいの!?」


「もちろんだよ」


 今度から、もっとエルフちゃんのことを見てあげるようにしよう。


「でもこのおでんは今後、禁止だから」


「あうん!」


 そうして、ぼくのエルフちゃんの家でのおでん騒動は終結した。

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