第19話 エルフとおでん②


「トシオ! 見てください。電子レンジですよ!」


 どやーん。


 エルフちゃんがキッチンに来るなり電子レンジの自慢を始めた。

 どうやら彼女にとって、これはすごく画期的なものだったらしい。


「見てください。トシオ。この電子レンジ、なんと焼くことも蒸すこともできるんですよ。コンビニのレンジよりも強いです」


 強いのかあ。


 この子、まだ家庭用レンジと業務用レンジの差をわかっていないみたいだ。

 まあ、ワット数を間違えたやつ買って火事にならなかっただけマシなのか。


「トシオ。おでんだけで足りますか?」


「あー。確かに足りないかもなあ」


「そうでしょう、そうでしょう。じゃあ、今日はわたしの料理を振る舞いますよ。トシオはそこに座っていてください」


 エルフちゃん、ずいぶんご機嫌だなあ。

 そんなに電子レンジを自慢したかったのか。


「へえ。それは楽しみだ」


 でもエルフちゃんの料理か。

 エルフ族の料理とか食べたことないし、すごく楽しみだ。

 それに可愛い女の子がつくってくれる料理なんて、それだけでわくわくしちゃうね。


 そう思って見ていると、エルフちゃんが冷蔵庫の引き出しを開けた。


 ――ドサドサドサッ。


 うん?


「エルフちゃん。それは?」


「トシオ、なにを言ってるんですか。いつも見ているじゃないですか」


「うん。……まあ、そうなんだけどね」


 キッチンカウンターの上に積まれたのは、見紛うことなきうちのコンビニの冷凍食品たち。

 ラーメンにお好み焼きに焼きおにぎりにピザ……。

 これ、もしかして全種類あるんじゃない?


 エルフちゃんはキラキラした目でそれを持った。


「トシオはどれにしますか。ちなみにわたしのおすすめはこの味噌ラーメンです。具まで入ってて、すごくおいしいんですよ」


「えっと、エルフちゃん」


「はい?」


「もしかして、いつも冷凍食品を食べてるの?」


「もちろんです!」


 エルフちゃんは鼻息を荒くして答えた。


「レンジでチンするだけでこのクオリティ! とてもエルフの魔法には真似できません!」


「きょ、今日はおでんだけでいいかなあ」


「え。そうなのですか?」


「う、うん。ちょっとお腹空いてないし。ハハ……」


 心なしかエルフちゃんがしょんぼりしているけれど、これはさすがに喜んで食べれないなあ。


「じゃあ、少し待ってくださいね。わたし、おでんのとっておきの食べ方を知ってるんです」


「へえ」


 それは期待できるのかな。

 なんたって電子レンジの出る幕はなさそうだもんね。


 エルフちゃんはキッチンでなにやらごそごそやっていた。


「お待ちどうさまです」


 そしておでんを持ったお皿がコトンと置かれた。


「わあ、おいしそうだね」


 ぼくはいつものコンビニのおでんを口に運び――。


 そして視界は真っ黒になってしまった。


 ≪つづく≫

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