第17話 サキュバスと元気になるオクスリ


 サキュバスと聞くと、みんなはどんな姿を想像するのだろう。

 男性の精力を食事にする種族なのだから、もちろんグラマラスなイメージが一般的だと思う。


 異世界との交流が始まってこちらに移り住むサキュバスが増え、グラビアアイドルとかの人気上位のほとんどは彼女たちが占めるようになってきた。

 でも最近は幼い感じの小悪魔系サキュバスアイドルユニットなんかも台頭してきて、その需要は初期のころに比べるとずいぶん幅が広くなっているのだそうだ。


 で、もちろんテレビ的なお仕事をしているひとばかりではない。


 深夜の二時ごろ。

 うちのコンビニには必ずサキュバスのお姉さんが来店する。

 ほとんどはスーツ姿の男性といっしょで、いっしょにお酒やタバコなどを買っていく。


 しかし、それはつき合っているわけではない。

 彼女は近くのキャバクラに勤めるホステスさんで、気に入った男性を家に連れ込んではその精力を頂いているのだ。


「バイトくん。いつものお願ぁ~い」


「は、はあ」


 ぼくはレジカウンターの裏にある、とてもお高いサキュバス用の精力剤を袋に入れる。

 いろんな商売があるもんだよなあ。


「ありがとうございましたあ」


「はぁ~い」


 そしてサキュバスさんはどぎつい化粧の香りを残して去っていく。


 彼女は朝方にもう一度、来店する。


 だいたいは始発で帰るお客さんを見送ったあとだ。

 満腹な彼女はご機嫌な様子で、いつも寝酒のウイスキーとカルパスを買っていく。


「お、つ、か、れ~」


「お疲れさまです」


「いやあ、今日のひとはあたりだったな~。きみもあと五年したら食べに来てあげるからね~」


「は、ハハ……」


 冗談なのか本気なのか、このひとはいつもこんな際どいことばかり言っている。


 そんな彼女にも、悩みはあるのだそうだ。


 ある日、彼女は珍しく夕方ごろにやってきた。


 いつもの胸元の開いたお水の女性ファッションではない。

 まるで清楚な女子大生のようなに落ち着いた服装である。


 化粧のほうも自然な感じで、一瞬、サキュバスさんだとわからなかった。

 彼女は「うふふ」とか「もう、マサユキさんったらあ」という感じで可愛らしく振る舞っている。


 ……あぁ、またか。

 ぼくは男のひとを見た。

 爽やかな感じの男性で、とても優しそうな印象だ。


 彼女はスイーツと紅茶飲料をレジに持ってきた。


「いつものは?」


「…………」


 このときに茶化すと、わりと本気で睨まれる。


「し、失礼しました……」


 そしてサキュバスさんは、おそらく本命であろう男性と家に向かっていった。


 で、その翌朝は、だいたい彼女の泣き顔を拝むことになる。


「本能なの! しょうがないじゃない! だってお腹が空くんだもん!」


「そ、そうですね」


「清楚なサキュバスが好きって、そもそもわたしたちに餓死しろって言ってるようなものじゃない! 人間の男って本当に自分のことばっかり!」


 サキュバスさんは泣きながらカウンターを叩いた。

 わかったので、仕事の邪魔をするのはやめてほしいなあ。


「またやったの?」


 そこへ、出勤前のダークエルフさんがやってくる。


「ねえ、ダークちゃん! 今度、合コンいこう! わたしたちを理解してくれる男を探しに行こう!」


「ハハ。……会社の飲み会がなかったらね」


 そう言って、働く女性たちは今日も朝の街に消えていくのだった。


 ファンタジーの住人が人間界で生きていくのも、大変なんだなあ。

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