第15話 エルフと花壇


 うちのコンビニの駐車場に、小さな花壇がある。

 はじめのころは季節の花を植えていたんだけど、そのうち世話まで手が回らなくなって、いまではなにも植えていない。


「これに、この花を植えればいいんですか?」


 エルフちゃんに店長からもらった花の種を渡した。


「うん。エルフ族って植物のお世話とか得意らしいじゃない。シフトのときにちょっと見るだけでいいから、お願いできないかなあって言ってたよ」


「それは構いませんけど。うちのベランダでも育ててますし」


 そう言うと、彼女は手慣れた感じで土を掘り起こして種を埋めた。


「魔法は使いますか?」


「え、できるの?」


「はい。多少ならお父ちゃ……、父も許してくれると思いますし」


 たぶん家でも使ってるんだろうなあ。

 するとエルフちゃん、種を埋めたところに手をかざした。


「大地の精霊ノームよ。いまこそ、その片腕を我に……、あ、いや、小指くらいの力をお貸しください」


 なんか言い直してるけど大丈夫かなあ。


 するとエルフちゃんの手のひらから淡い光が生まれ、それが土の中に沈んでいった。


「これで大丈夫なの?」


「えぇ。たぶんすぐに……」


 言うが早いか、土の中からぴょこんと芽が出てきた。

 それはにょきにょきと成長すると、瞬く間に黄色い花を咲かせる。


「わあ、魔法って初めて見た。すごいね!」


「い、いやあ。それほどでもないですけど」


 エルフちゃんはてれてれと顔を赤くしている。


「他にもできるの?」


「じゃ、じゃあちょっとだけ」


 エルフちゃんは別のところに埋めた種に手をかざした。


「ノームよ! 我に力を!」


 ほわわーん。


「あ……」


「え……」


 それはたちまち店を超えるほどの怪物花――いや、もはや大木に成長した。

 ぽかんと見上げていると、しれっとエルフちゃんが逃げようとしていた。


「待って」


「あうん!」


 その襟首をがしっと捕まえる。


「どういうこと? なんでジャックと豆の木みたいになってるの?」


「えっと。……ちょっと成長させすぎちゃったかなあ、みたいな」


 てへ、と可愛い子ぶるが、こんな大木、どうしろっていうんだ。


「小さくできないの?」


「えっと、……悪口を言えば凹んで小さくなるん」


 そういえば雪の結晶に悪口言うと形が崩れるって聞いたことあるなあ。


「……とりあえず、店長が来るまでに小さくしよう」


「う、うん」


 それから小一時間、ぼくらはありったけの語彙をフル動員して悪口を言い続けた。

 その甲斐もあって、一応は人間くらいまで小さくすることに成功した。


 もちろん店長にはこっぴどく叱られた。

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