第14話 エルフと缶コーヒー
うちのコンビニは、先にも言った通り商品をダメにしてしまったら自分で買いとることになっている。
調理されたホットスナックを落としてしまったり。
冷蔵商品を出しっぱなしにしてしまったり。
買取りにはいろんな原因がある。
その中でもけっこう多いのが、缶飲料を落としてしまうケースだ。
あれらはけっこうデリケートで、ちょっと落としただけでも角度によっては致命的なものになってしまう。
ほんの少しの凹みなら店長が気を利かせて値引きして売ってくれるんだけど、さすがにそうも言ってられないものもある。
特にウォークイン冷蔵庫の中はカメラもないし、誰がやったのかはわからない。
棚に凹んだ缶が置きっぱなしになっていることもある。
まあ、一本や二本なら店長も大目に見てくれるんだけど……。
「これはひどいね」
ぼくは冷蔵庫の中で唖然としていた。
缶コーヒーの段ボールを開けると、中の商品のほとんどが変形してしまっていた。
「こ、こんなこと、あるんですか?」
エルフちゃんが信じられないという様子でつぶやいた。
「うん。段ボールごと落としたとき、こういうことになる。段ボールは衝撃を吸収するから破れたりはしないんだけど、中の商品には衝撃が伝わってぜんぶ変形してしまうんだ」
取り出してみると、ちょっと言い逃れができないくらいに凹んでしまったものも多い。
さすがにこれらをお客さんに売ることはできないだろう。
エルフちゃんと目を合わせた。
「ち、違うもん! うちじゃないもん!」
「大丈夫。そんなこと思ってないよ」
わかっている。
エルフちゃんは今日のシフトに入ってから、ついさっきまでウォークインには入っていない。
いまの短時間でこれほどの隠ぺい工作を行うのは難しい。
となれば前のシフトのバイトが落とし、そのままにして帰ったと考えるのが妥当だ。
前のシフト――そう、犯人は姫騎士ちゃんだ!
きっとぼくと同じことを思ったに違いない。
エルフちゃんも真剣な表情でうなずいた。
「うっす。お疲れさまっす」
その声にハッとして振り返ると、オークくんが外の掃除を終わらせて戻ってきたところだった。
そしてぼくたちが見ている段ボールに気づいた。
「あ、それ。昨日の夜に店長がやっちゃったから、そのままにしておいてくれって言ってましたっす」
そう言って、スタスタとレジへ行ってしまった。
「「…………」」
次の日――。
「はい。姫騎士ちゃん。お疲れ」
「姫騎士さん。これどうぞ。日頃の感謝の気持ちです」
「ど、どうも。……なぜ急に?」
「理由は聞かないでほしい」
「はあ」
ぼくらから缶コーヒーを受け取った姫騎士ちゃんは、不思議そうに首をかしげるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます