第13話 エルフとタバコ


 あるおばさんが、エルフちゃんのレジで声高々に行った。


「スーパーライトちょうだい」


 エルフちゃんが固まった。

 聞き覚えのない単語に戸惑っているようだった。


「ほら、タバコよタバコ」


 おばさんは急かすようにレジカウンターを叩いた。

 そこでやっとエルフちゃんはうしろのタバコ棚を見た。


 しかし、わからない。

 そもそも未成年である彼女にとって、銘柄やタールの表記を言われただけでわかるものでもないのだ。


 と、やっとエルフちゃんはスーパーライトを手に取った。

 嬉しそうにバーコードを通すが、それは『ピース』のスーパーライトだ。


 残念ながらそれは、おばさんの求めたスーパーライトではなかった。


「わたしはスーパーライトって言ってるでしょ! スーパーライトって言ったらメビウスのスーパーライトに決まってるでしょ! スーパーライトが他に――」


 おばさんの言葉のマシンガンに、エルフちゃんは魂を抜かれているようだった。

 すごい、目が完全に死んでる……。


 ぼくは手早くレジを済ませると、慌てて棚からメビウスのスーパーライトを出した。


「申し訳ございません。次から番号をお願いできますか?」


 そのためにタバコ棚には番号が振ってある。

 おばさんはむっとしたようだったが、それ以上はなにも言わずに出ていってしまった。


 エルフちゃんはやはり顔を真っ赤にして震えていた。


「……なぜ。なぜタバコを吸うひとは、こっちが好みを知っている前提で話すん……?」


 いや、まあ、一部のひとだけなんだけどね。

 それでもああいうお客さんは精神的にくるからなあ。


「まあ、次は番号を言ってほしいって伝えるといいよ」


「う、うん……」


 ――で、次におっさんがやってきたときのこと。

 彼はレジに来ると、なにも言わずに一言だけ告げた。


「タバコ」


「あ、あの、番号……」


「あん? いつも買ってんだろ」


 おっさんは面倒くさそうに舌打ちした。


「覚えとけよ。店員だろうが」


 そして強烈な言葉のボディーブローを見舞うと、商品を受け取ってさっさと行ってしまった。


「え、エルフちゃん。大丈夫……?」


 真っ白になっていたエルフちゃんは、ぼくの声にこちらを向いて悲鳴を上げた。


「理不尽!」


 うんうん。わかるわかる。

 ぼくは泣く寸前のエルフちゃんの頭をなでてやるのだった。

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