第12話 エルフと普段なにしてるの?
「そういえば、エルフちゃんってどうしてこっちに来たの?」
ある日、何気なしに聞いてみた。
エルフちゃんはコロッケを揚げる手を止めた。
「高校進学を機にひとり暮らしでもしてみろとお父ちゃ……、いえ、父が言いましたので」
へえ。ずいぶん放任的だなあ。
やっぱり自然の中で暮らしていると、教育方針もそんな感じになるんだろうか。
「まあ、そもそもエルフって寿命が長いですから。教育に関しては適当なのが多いです。というか、エルフって知的好奇心? っていうのが高いので、放っておいても勝手に勉強するらしくて」
「それは親としては楽でいいね」
「えぇ。ただそのせいで、禁忌の魔術を覚えようとする厄介なのが後を絶たないとも聞きましたけど」
「へ、へえ」
よくわからないけど、どこも大変そうだなあ。
「バイトはじゃあ、学費とか生活費のため?」
「そんなところです。あと、こっちの仕事ってどういうものか興味があって……」
そういえば、エルフちゃんって仕事を覚えるのはやいもんなあ。
このバイトも自発的に始めたようだし、やっぱりそこはエルフの血筋ってことか。
「なんだ。何の話をしている?」
と、そこへ姫騎士ちゃんが興味深々な様子で寄ってきた。
「そういえば、姫騎士ちゃんって普段はなにしてるの?」
ちょっと大人びた外見だけど、姫騎士ちゃんもこっちの高校生と同じくらいの年齢だと思う。
となれば、もしかして彼女も学生さんなのかな。
姫騎士っていうくらいだから、すごいお嬢さま学校とかに通ってたりして。
そう思っていると、姫騎士ちゃんは平然と言った。
「家で漫画を読んでいる」
うん?
「いや、暇つぶしのほうじゃなくてさ。学校とか、どこに行ってるの?」
「学校など行かぬぞ」
「え?」
すると彼女、さも当然のように胸を張った。
「我らは姫騎士だ。姫が働くわけないだろう」
ちょっとこの子が何を言ってるのかわからないなあ。
そこへ、オークくんがお弁当の配達から戻ってきた。
「うっす。どうしたんすか?」
「いや。姫騎士ちゃんが、姫騎士族は働かないって言っててね」
「そっすね。姫騎士さんたちは働かないっす」
「そうなの?」
「うっす。例外もいますけど、彼女らは飲んだり食ったりするだけの種族っす。中には戦えるひともいますけど、このご時世、剣の腕だけではとても仕事は……」
世知辛いなあ。
しかし、それでどうやって生きていけるんだろう。
まあ、異世界のことだから特殊なルールがあるのかな。
まったく羨ましい限りだね。
と、場の空気を察したのか、姫騎士ちゃんが声を張り上げた。
「そう言うなら、オークだって似たようなものだろう! この野蛮人め、普段はどんな犯罪に手を染めているかわかったものではないからな!」
うわあい、オークくんに飛び火したぞー。
でも、そういえばオークくんが普段、なにをしているのかぼくも知らないな。
「オークくん、普段なにしてるの?」
「自分、大学に通ってるっす」
「え、そうなの?」
「うっす。トシオさんのいっこ下っす」
「へえ、年下とは意外だなあ。ちなみにどこの大学? ここから近いの?」
「東大ってとこっす」
――ピシッ。
姫騎士ちゃんが固まった。
「あー……」
さすがの彼女でも、この状況がどういうものかわかってるらしい。
彼女は膝をつくと、悔しげに吐き捨てた。
「……殺せ!」
いや、いいから仕事しようね。
あと、家で暇してるならシフト増やしてくんないかなあ。
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