第11話 ダークエルフとウコンドリンク


 うちのコンビニはアルバイトだけじゃなくて、常連さんにも亜人がいる。


 そのひとりがダークエルフさん。

 耳のとんがり具合はエルフちゃんと似ているんだけど、男性よりも背が高くてスレンダーなひとだ。白銀の髪と褐色の肌が特徴的な美人さん。エルフちゃんも将来、こんなふうになるのかな。


 彼女はいつも仕事帰りの午後六時、疲れた顔でやってくる。

 そして必ず、ウコンドリンクと胃腸薬を買っていく。


「お疲れさまです」


「おつかれ……」


「今日もですか?」


 うん、と弱々しくうなずいた。


「……これから飲み会」


「大変ですね」


「うん」


「がんばってください」


「ありがと」


 ゴミ箱の前でぐいっとそれを飲み干す彼女の姿は、もはやぼくの日常の一部だった。


 そんなある日のこと。


「あれ。今日はウコン買ってかないんですか?」


 するとダークエルフさんは、にやりと笑った。


「今日はないよ。明日、休みだからね!」


 うわあ、眩しい笑顔だなあ。

 目の下にくっきりしたクマがなければだけど。


 彼女は缶チューハイと柿ピーを買うと、うふふふとご機嫌な足取りで店を出ていった。


 それでも飲むんだなあ。


 そして一時間後――。


「あれ。ダークエルフさん?」


「うん……」


 彼女はほんのり赤い顔で――でも普段より暗い顔で、いつものウコンドリンクと胃腸薬をレジに置いた。


「どうしたんですか?」


 休みの日にもそれほど飲むのだろうか。

 それはさすがに身体によくないのでは、と思っていると、彼女は深いため息をついた。


「今日は飲み会出ないって言ったのに……。言ったのに……」


 どうやら上司から呼び出されてしまったらしい。


「結婚したい……」


 そう漏らすと、彼女はふらふらと店を出ていってしまった。


 そこへエルフちゃんがやってきた。


「……エルフって長命だから、婚期逃したらだいたいあんな感じになるんです」


「へえ」


「うちの従姉も独り身が長いですけど、いまじゃただアニメを消化する機械みたいですもんね」


 うーん。

 こっちのアニメを唯一の楽しみにしてるエルフって、なんかいやだなあ。


「でもあれだけ美人さんなら、人間と結婚したりできるんじゃないの?」


「確かにそんなひとも聞きますけど、結局は人間のほうが寿命は短いじゃないですか。エルフの里って、異類婚姻の出戻りに厳しいんですよ」


「へえ。大変だなあ」


 彼女がどういった経緯でこっちで働いているのか知らないけれど、どうか明日はゆっくり休めますようにと祈るばかりだった。

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